電子帳簿保存法の3つの制度のうち、法人・個人事業者の全員に対応が求められるのは「電子取引データ保存」だけです。メールで届いた請求書PDFやクラウドサービスの領収書を、印刷して原本データを消す運用は、2024年1月以降できません。この記事では、スタートアップが最小限の手間で電子帳簿保存法に対応するための実務ルールを、国税庁の資料(2026年11月時点で確認した最新版)に沿って整理します。
電子帳簿保存法は3区分、必須なのは電子取引データ保存だけ
電子帳簿保存法の対象となる電子帳簿等保存制度は、次の3つに分かれています(国税庁パンフレット、令和8年6月)。
- 電子帳簿等保存:自社で作成した帳簿や書類を電子データのまま保存する。希望者のみ
- スキャナ保存:紙で受け取った書類をスキャンして保存する。希望者のみ
- 電子取引データ保存:電子で授受した取引データを保存する。法人・個人事業者は対応が必要
紙の請求書を従来どおり紙で保存するなら、前の2つは使わなくても構いません。一方、電子取引データ保存は選択制ではなく、取引先とメールやクラウドでやり取りしている以上、すべての事業者に義務がかかります。
保存が必要になるのは「紙なら保存していた書類」のデータ
保存の対象は、書面でやり取りしていれば保存が必要だった書類に相当するデータです。国税庁は、注文書・契約書・送り状・領収書・見積書・請求書などを例に挙げています。保存する範囲は、これまで書面で保存していたものと変わりません。
スタートアップで該当しやすいのは、次のような場面です(国税庁の一問一答で取り上げられている類型)。
- 取引先からメールに添付されたPDFの請求書を受け取った
- クラウドサービスの管理画面から領収書をダウンロードした
- ECサイトで備品を購入し、購入履歴の画面で領収書を確認した
こうしたデータを印刷して紙だけを残し、データを削除する運用は認められません。電子データが原本として扱われます。
要件1:真実性の確保は4つのうち1つでよい
保存したデータが後から書き換えられていないことを示す措置を、真実性の確保といいます。国税庁の一問一答(令和8年7月)では、次のいずれかを行えばよいとされています。
- タイムスタンプが付与されたデータを受領する
- 受領したデータに速やかにタイムスタンプを付す
- 訂正削除の記録が残る、または訂正削除ができないシステムで授受・保存する
- 訂正削除の防止に関する事務処理規程を定め、備え付け、運用する
専用システムを入れていない小規模な会社は、最後の事務処理規程で対応できます。国税庁のサイトに規程のサンプルが掲載されているため、社名と管理責任者を埋めて社内に周知すれば形が整います。ルールを決めて守ることで要件を満たせる、というのが国税庁の説明です。
要件2:可視性の確保|検索要件は5,000万円以下なら不要
保存したデータをすぐに確認できる状態にしておくことを、可視性の確保といいます。求められるのは次の2点です。
- 保存データを確認するためのディスプレイやプリンタ等を備え付ける
- 「日付・金額・取引先」で検索できるようにする
2つ目の検索要件は、条件を満たすと緩和されます。税務調査でデータのダウンロードの求めに応じられるようにしていれば、次の場合は検索要件そのものが不要です(国税庁パンフレット、令和8年6月)。
- 基準期間(2年前)の売上高が5,000万円以下である
- 電子取引データを出力した書面を、日付と取引先ごとに整理して提示できる
基準期間とは、法人なら前々事業年度、個人事業者なら前々年です。創業から間もないスタートアップは、基準期間の売上高が5,000万円以下に収まっている場合があり、その場合はこの緩和を使えます。ただし、売上が伸びて基準期間の売上高が5,000万円を超えた年からは、検索要件を満たす必要があります。判定は毎期行ってください。
専用ソフトなしで始める最小構成の運用例
国税庁の一問一答には、特別なソフトを使わない場合の保存例が示されています。メールにPDFの請求書が添付されて届いた場合は、次のように保存すれば要件を満たすとされています。
- ファイル名に規則性を持たせ、内容を表示する。例:2021年1月31日に株式会社霞商店から受領した110,000円の請求書は「20210131_㈱霞商店_110000」
- 取引先ごとや月ごとなど、任意のフォルダに格納する
- 事務処理規程を定めて備え付け、規程に沿って運用する
ファイル名に日付・取引先・金額が入っていれば、フォルダの検索機能で検索要件を満たせます。金額は、税抜か税込かで迷いがちですが、国税庁は帳簿の処理方法(税抜経理か税込経理か)に合わせるのが望ましいとしています。受領したデータに記載された金額をそのまま使っても問題ありません。
なお、会計ソフトの選定と合わせて保存の仕組みを整えたい場合は、スタートアップの会計ソフト選び方|freee・マネーフォワード・弥生もあわせて確認してください。月次の締め作業にどう組み込むかは、月次決算の進め方|スタートアップが最低限押さえるべき経理フローで整理しています。
準備が間に合わない場合の猶予措置
ルールに沿った保存体制の整備が間に合わない場合に使える猶予措置があります。税務署長が「要件に従って保存できなかったことに相当の理由がある」と認め、次の2点を満たす場合は、保存時の要件が不要になります。
- 電子データそのものを保存している
- 税務調査の際に、電子データと、整然とした形式・明瞭な状態で出力した書面の提示・提出の求めに応じられる
国税庁は、システムや社内ワークフローの整備が間に合わないといった事情も「相当の理由」に含まれるとしています。税務署への事前申請は不要です。
注意点が3つあります。
- 書面を保存するだけでは足りない。電子データを消さずに保存する必要がある
- 整備が整い、要件どおりに保存できる状態なのに、資金繰りや人手不足といった理由もなく保存していない場合は対象外
- 整備が間に合わない事情が解消された後の取引には適用されない
猶予措置は、体制を整えるまでのつなぎと考えるのが安全です。
保存期間は帳簿書類の保存期間と同じ
電子取引データは、各税法に定められた保存期間が満了するまで保存します。国税庁の一問一答では、帳簿書類の保存期間は次のとおりです。
- 法人:帳簿・書類とも7年。青色繰越欠損金が生じた事業年度などは10年
- 個人事業者(青色申告):帳簿・決算関係書類は7年。領収証などの現金預金取引等関係書類は、前々年分の事業所得・不動産所得が300万円以下なら5年
消費税の仕入税額控除の要件として保存する請求書等は、7年間の保存が必要です。取引先との契約上、請求書を紙でも受け取っている場合は、その紙も保存する必要があります。
優遇措置は任意だが、法人にも関係する
必須の保存要件とは別に、一定の要件を満たすと税制上の優遇を受けられる仕組みがあります。いずれも任意で、あらかじめ届出書の提出が必要です(国税庁パンフレット、令和8年6月)。
- 優良な電子帳簿:訂正削除の履歴が残るシステムなどで帳簿を保存すると、関連する過少申告があった場合の過少申告加算税が原則10%から5%に軽減される
- デジタルシームレス保存:デジタルインボイス等の電子取引データを自動で保存し、帳簿に連携する仕組み。要件を満たすと重加算税の10%加重の対象から除外される。令和9年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税が対象
どちらも、まず電子取引データ保存の要件を満たしていることが前提です。会計ソフトを入れ替える時期に、あわせて検討するのが現実的です。
よくある質問
Q. 紙で受け取った請求書も電子帳簿保存法の対象ですか?
紙で受け取った請求書は、電子取引データ保存の対象ではありません。従来どおり紙で保存できます。スキャンして電子化したい場合は、別の制度であるスキャナ保存の要件に従います。
Q. 印刷した請求書を保存していれば、データは消してもよいですか?
消せません。2024年1月以降、電子取引データは書面に出力して保存する方法が認められなくなり、データのまま保存する必要があります。書面は自己の管理の便宜のために併せて保存することはできますが、データの代わりにはなりません。
Q. 事務処理規程は必ず作る必要がありますか?
真実性の確保は4つの措置のうちいずれか1つでよく、訂正削除の記録が残るシステムを使う場合などは規程が不要です。専用システムを使わない場合は、規程を作って運用するのが最も手軽な方法です。
まとめ
- 電子帳簿保存法で全事業者に義務があるのは、電子取引データ保存だけ
- 真実性は事務処理規程で、可視性はファイル名のルールで最小限に対応できる
- 基準期間の売上高が5,000万円以下なら検索要件は不要。毎期の判定を忘れない
- 体制が整うまでは猶予措置を使えるが、データは必ず消さずに保存する
CFO.Mediaでは、スタートアップの資金調達や補助金の動向を、週次・月次レポートと業界分析でお届けしています。経理の保存ルールは、早めに型を作っておくと、体制が大きくなってからの手戻りを減らせます。
出典
- 国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(令和8年7月)https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0026007-006_05.pdf
- 国税庁「電子帳簿等保存制度を活用して、デジタル化をさらに進めてみませんか?」(令和8年6月)https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/pdf/0026006-122.pdf
- 国税庁「令和6年1月からの電子取引データの保存方法」(令和5年12月)https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/pdf/0023011-012.pdf
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