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地方スタートアップの資金調達ルート|自治体・地銀・東京VCの使い分け

CFO.Media編集部
地方スタートアップの資金調達ルート|自治体・地銀・東京VCの使い分け

地方スタートアップの資金調達で迷うのは「どの資金を、どの段階で、誰から受けるか」です。自治体の助成、公庫融資、地銀系VC、東京のVCは役割が違います。順番を決めて組み合わせると、資金繰りの見通しが立てやすくなります。

過去の記事「地域別スタートアップ資金調達動向2026」では、東京への集中と地方VCの台頭という市場の構造を整理しました。本稿はその続きです。地方に本店を置く経営者が、実際に資金源をどう並べるかを扱います。制度の内容は2026年10月26日時点で各公式ページを確認したものです。

資金源は段階ごとに窓口が変わる

地方スタートアップが使える資金は、段階によって主役が入れ替わります。創業直後は助成と融資、シードは地域のVCやファンド、シリーズA前後は東京の投資家との接点が焦点になります。

段階 主な資金源 返済 主な窓口
創業直後 自治体の助成、公庫融資 助成は不要、融資は必要 都道府県、公庫支店
シード 地銀系VC、地域ファンド 不要(出資) 各VC、金融機関
シリーズA前後 東京のVC、事業会社 不要(出資) 紹介、拠点都市

資金源を選ぶ軸は3つあります。返済義務があるか、株式の希薄化が起きるか、使途や入金時期に縛りがあるかです。この3軸は後半の財務設計で使います。

創業直後は助成と公庫融資で土台をつくる

創業直後の地方スタートアップは、実績が乏しく、投資家から見える情報も限られます。この段階では、地域の公的な資金を先に押さえる順番が自然です。

都道府県の助成は本店所在地で決まる

中小企業基盤整備機構(中小機構)の「地域中小企業応援ファンド」は、中小機構、都道府県、地域金融機関などが資金を出して基金をつくり、その運用益から創業や販路開拓に取り組む事業者へ助成する仕組みです。助成金は原則として返済が不要で、複数年にわたって助成するファンドもあります。

注意点は、ファンドが全国約23都道府県にしか組成されていないことです。企業の所在地の都道府県に該当ファンドがなければ、原則として助成を受けられません。助成の対象事業も都道府県の産業ビジョンによって異なります。最初の作業は、本店所在地の都道府県に該当ファンドがあるかを、中小機構の一覧で確認することです。

公庫の創業融資は上限7,200万円、据置5年

日本政策金融公庫(国民生活事業)の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方が使えます。融資限度額は7,200万円です。返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が10年以内で、どちらも据置期間は5年以内です。

地方で事業を始める経営者に関係する利率の優遇が、いくつかあります。

  • Uターン等により地方で新たに事業を始める方は、特別利率Aの対象になります
  • 地域未来交付金を活用した起業支援金の交付決定を受けて事業を始める方は、特別利率Bの対象になります
  • 日本ベンチャーキャピタル協会の会員等、または中小機構が出資する投資事業有限責任組合から出資を受けている方(見込まれる方を含む)は、特別利率Bの対象になります

最後の項目は、出資と融資がつながる点で重要です。日本ベンチャーキャピタル協会の会員(賛助会員を除く)等のVCから出資を受けると、特別利率Bの対象になる場合があります。株式で調達する計画と、融資で調達する計画は、別々に考えず同時に設計するほうが有利に働きます。

なお、創業期(税務申告を2期終えていない方)は、公庫が原則として無担保・無保証人での利用を案内しています。ただし審査の結果によっては、希望どおりにならない場合もあります。各要件の細かい条件は、公庫の公式ページで最新の注記を確認してください。

シードは地域のVCと中小機構出資ファンドを軸にする

シード期に入ると、助成や融資だけでは開発と採用の費用を賄いにくくなります。出資を受ける検討が始まる段階です。

地銀系VCは地域の人脈と同時に使う

地方銀行がVC部門を設立し、ベンチャーデットなどの手段でスタートアップ支援に乗り出す動きは、近年広がっています。仕組みと実績は、過去の記事「地域金融機関のVC参入動向2026」と「地銀VC・ベンチャーデットの実力」で整理しています。地域金融機関が提供する制度の全体像は「地域金融機関のスタートアップ支援一覧」にまとめました。

実例として、北海道帯広市のファームノート(酪農・畜産向けDX)があります。同社は2023年5月から2024年2月にかけて、グループ全体で総額8.4億円を調達したと発表しました。第三者割当増資の引受先には、札幌イノベーションファンド、日本政策投資銀行、明治ホールディングス、出光興産などが並びます。あわせて、日本政策金融公庫と帯広信用金庫からの借入も実施しています。累計の調達額は約53億円です。

この事例が示すのは、地方に本店を置いたままでも、地域のファンド、東京の事業会社、政府系金融機関、信用金庫を一連の調達で組み合わせられることです。出資と借入を同時に走らせる設計が、一つの現実的な形になっています。

中小機構が出資するファンドを探す

中小機構は、民間の投資会社が運営するファンドに出資しています。中小機構が出資者(有限責任組合員)となり、投資先の選定と運営は民間の投資会社が担います。投資対象が設立5年未満の創業期・成長初期の企業になる「起業支援ファンド」は、シード期の地方スタートアップと相性の良い種類です。

投資を受け付けているファンドは、中小機構のファンド検索ページで条件を指定して探せます。ファンドごとに地域や分野が異なるため、地域(ブロック単位)や業種で絞り込む使い方になります。前述のとおり、中小機構が出資するファンドから出資を受けると、公庫融資の特別利率Bの対象になる場合があります。

シリーズA前後は東京の投資家との接点を計画的につくる

シリーズA前後になると、必要な調達額が大きくなり、投資家の層も東京に集まります。ここで地方スタートアップは、東京の投資家との接点を意図して設計する必要があります。

東京の件数比率は約7割、東京以外も増えている

CFO.Media Startup DBで本店所在地が判明した案件を数えると、2026年上半期は501件でした。そのうち東京都に本店を置く企業は355件(70.9%)、東京以外は146件でした(CFO.Media Startup DB調べ、2026年上半期、533案件を集計・2026年7月16日計測)。東京以外の件数は、2025年同期の113件から増えています。詳しい分析は「資金調達の東京集中は緩んだか」にあります。

東京以外が増えても、東京が件数の約7割を占める構造は変わっていません。投資家の多くが東京にいる以上、地方の経営者が東京の投資家に会う機会をつくる計画は、調達の前段階から必要です。

拠点都市の窓口を使う

内閣府は2025年6月4日、第2期スタートアップ・エコシステム拠点都市として13都市を選定しました。グローバル拠点都市が8都市、NEXTグローバル拠点都市が5都市です。

  • グローバル拠点都市:札幌・北海道、仙台・東北、東京、中部、大阪・京都・ひょうご神戸、広島、北九州、福岡
  • NEXTグローバル拠点都市:北陸、長野・新潟、瀬戸内、くまもと、沖縄

本店がこれらの地域にある場合、各コンソーシアムが地域の支援窓口になります。支援の中身は都市ごとに異なるため、内閣府のページから各コンソーシアムの取組概要を確認し、投資家との接点づくりに使える制度があるかを問い合わせる流れが現実的です。拠点都市の外にある場合は、前述のファンドと金融機関の紹介が主な経路になります。

資金源を組み合わせるときの財務設計

複数の資金源を使う場合は、冒頭の3軸で整理すると判断しやすくなります。

返済義務:公庫融資の据置期間(5年以内)は元金の返済が止まりますが、利息の支払いは続きます。据置期間が終わった後の月次返済額を、事業計画に先に織り込んでおきます。

希薄化:出資を受けるたびに創業者の持株比率は下がります。助成や融資で賄える範囲を先に使い、出資は事業の成長に直結する部分に絞る順番が、持株比率を守る基本形です。

入金時期:助成金や補助金は、事業を実施して経費を支払った後に入金される後払いが原則です。その間の資金を、融資や出資でつなぐ設計が欠かせません。仕組みは「補助金の資金繰り設計」で解説しています。

CFO.Mediaでは、スタートアップの資金調達動向を週次・月次のレポートと業界分析で継続的に発信しています。地域別の動きを確認したい場合は、あわせてご覧ください。

よくある質問

地方に本店があると東京のVCから調達しにくいですか

データだけでは因果を判断できません。ただし、東京以外の本店で調達額が10億円以上の案件は、2026年上半期に27件ありました(CFO.Media Startup DB調べ、2026年上半期、533案件を集計・2026年7月16日計測、調達額が開示された案件のみ)。前年同期の20件から増えており、10億円規模の調達は地方の本店からも出ています。

東京に本店を移せば調達しやすくなりますか

移転で調達が楽になるとは言い切れません。東京の投資家と会う頻度は増えますが、採用や事務所のコストも変わります。また、都道府県の助成は本店所在地のファンドが対象のため、移転すると使えなくなる場合があります。移転前に、使っている制度の要件を確認してください。

地域中小企業応援ファンドは自分の県にありますか

全国約23都道府県で組成されています。一覧は中小機構のページにPDFで掲載されています。該当ファンドがない都道府県では、原則として助成を受けられないため、最初に確認する項目です。

まとめ

  • 資金源は段階で変わります。創業直後は助成と公庫融資、シードは地域のVCと中小機構出資ファンド、シリーズA前後は東京の投資家との接点が焦点です
  • 本店所在地の都道府県に応援ファンドがあるかが、助成を使えるかの分かれ目です
  • 公庫は上限7,200万円、据置5年以内で、一定の出資を受けると特別利率Bの対象になる場合があります
  • 東京の件数比率は約7割で、東京以外も増えています。東京の投資家との接点は計画的に設計します
  • 組み合わせの判断は、返済義務、希薄化、入金時期の3軸で整理します

出典

CFO.Ai

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