CFO.Media

資本政策とは|創業から上場までの株式配分と種類株の使い分け方

CFO.Media編集部
資本政策とは|創業から上場までの株式配分と種類株の使い分け方

資本政策は、創業者が「誰に・どれだけの株式を渡すか」を、上場や売却までを見通して決める設計です。最初の資金調達で決めた持分比率は、後から動かせません。

シードの段階では、目の前の調達額を優先しがちです。しかし、シリーズA、シリーズB、上場と進むたびに株式は増え、創業者の持株比率は下がっていきます。

この記事では、資本政策の基本を4つの視点で整理します。創業期の配分、ラウンドごとの希薄化、種類株の使い分け、上場から逆算した持株比率です。数字は経済産業省、NEDO、日本取引所グループ(JPX)の公開資料から取っています。

資本政策とは|決めるのは「誰に・どれだけ」

NEDOの「研究開発型ベンチャー企業の資本政策立案の手引」は、資本政策を次のように定義しています。どの株主に、どれだけの株式(議決権)を割り当てるかを検討することです。

株式を渡すことは、株主が経営に参加することを意味します。経営者と意見が合わない株主の権限が大きくなると、意思決定が遅れます。最初の調達で特定の投資家に多く渡してしまうと、次の調達で他の投資家が入りにくくなります。

同手引は、持分比率を後から修正することは基本的に不可能と考えるべきだと述べています。同じ手引のアンケートでは、初回の調達交渉で次の調達やエグジットを見据えた資本政策を「充分に戦略を立てて臨んだ」という回答は3割程度にとどまりました。同手引は、投資家の言いなりの内容で契約した例もあると紹介しています。

資本政策で扱う論点は、大きく3つです。

  • 株式の配分:創業者、共同創業者、従業員、投資家に何%ずつ渡すか
  • 株式の種類:普通株で調達するか、優先株(種類株)で調達するか
  • 出口からの逆算:上場や売却の時点で、誰がどれだけ持っている状態にするか

経済産業省の「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」は、未上場の段階から上場後までを通じて、11の課題と検討ポイントを整理しています。ファイナンスの全体像を知りたい場合は、あわせて確認してください。

創業期の株式配分|共同創業者とストックオプションの枠

資本政策の出発点は、創業時の株式の持ち方です。ここで決める項目は、共同創業者間の比率とストックオプション(SO)の枠の2つです。

共同創業者間の比率は、後から調整しにくい項目の代表です。出資額や役割の違いがあっても、全員が同じ比率で始めると、退任や意見対立のときに動けなくなります。事業への関わり方が変わる前提で、比率と退任時の扱い(株式の買い戻しなど)を最初に取り決めておくことが現実的です。

SOの枠は、採用のために早めに確保します。調達のたびに枠を取り直すと、そのたびに創業者の持分が下がります。シード前に枠を確保しておけば、投資家と同じ土俵で希薄化を考えられます。SOの設計と税務は、スタートアップの給与・ストックオプション設計で別に整理しています。

持株比率の管理は、キャップテーブル(株主構成表)で行います。ラウンドごとの更新方法は、キャップテーブル管理の記事を参照してください。

ラウンドごとの希薄化|持株比率はどこまで下がるか

希薄化は、新しい株式を発行するたびに既存株主の持分比率が下がることです。調達額が同じでも、会社の評価額(バリュエーション)が低いほど、渡す株式は多くなります。

次の表は、仮の数字で置いたシミュレーションです。実在の企業やCFO.Mediaの集計値ではありません。

ラウンド 調達額 投資前評価額 新株主の持分
シード 2億円 8億円 20%
シリーズA 5億円 20億円 20%
シリーズB 15億円 60億円 20%

創業者が全株を持つ状態から、SO枠10%を先に確保し、上の3ラウンドを経た場合の持分は次のとおりです。SO枠の追加は考えず、既存の持分が各ラウンドで同じ割合ずつ薄まる単純な計算です。

時点 創業者 SO枠 投資家合計
創業時(SO枠確保後) 90.0% 10.0% 0%
シード後 72.0% 8.0% 20.0%
シリーズA後 57.6% 6.4% 36.0%
シリーズB後 46.1% 5.1% 48.8%

毎回20%ずつ渡すだけで、シリーズB後の創業者は46%台まで下がります。過半数を割る時点は、シリーズBの手前で見えてきます。共同創業者が複数いれば、1人あたりの持分はさらに小さくなります。

この計算が示すのは、調達額そのものより「各ラウンドで何%を渡すか」を先に決める重要性です。次のラウンドで渡してよい上限を決めて逆算すれば、必要な評価額と調達額の目安が出ます。

種類株の使い分け|普通株と優先株の違い

種類株式は、配当や残余財産の分配、議決権などについて、普通株と異なる内容を定めた株式です。権利の内容は会社法108条に定められています。投資家に発行する優先株式が、スタートアップ投資の中心です。

EY Japanの解説によると、優先株式には次の内容を定めるのが一般的です。

権利 内容 会社法の根拠
優先残余財産分配 清算時に優先して分配を受ける 108条1項2号
取得請求権 株主が会社に取得を請求できる 同項5号
取得条項 会社が一定の条件で普通株へ転換できる 同項6号

M&Aで会社が売却されたときは、優先残余財産分配の定めに従って売却対価が分けられます。これが「みなし清算」です。

役員選任権や拒否権も種類株で定められます。ただ、定款変更が必要になるため、投資契約や株主間契約で対応する例が多いとEY Japanは説明しています。契約の条項は、投資契約書の重要条項で解説しています。

種類株で希薄化を抑える仕組み

種類株には、起業家の持分の減りを抑える働きがあります。優先株には優先的な権利が付くため、普通株より高い価格で発行しやすいからです。

経済産業省のベンチャー投資等に係る制度検討会の報告書(2015年3月)には、次の設例があります。優先株と普通株の間に4倍の価値差があるとします。同じ2億円を調達しても、普通株で調達すると持分の50%を失います。優先株で調達した場合は20%で済みます。あくまで設例であり、実際の価格差は案件ごとに異なります。

種類株のコスト

種類株には負担もあります。NEDOの手引は、条件交渉に手間がかかることと、通常の株主総会に加えて種類株主総会が必要になる場合があることを挙げています。そのため、大きな調達では種類株、小さな調達では普通株という選び方が一般的とされています。

シードでは、評価額を決めずに調達できるコンバーティブル型の手段もあります。経済産業省のガイドラインによると、策定時点で日本のシード期における活用は1割程度にとどまっています。仕組みはコンバーティブルノートとJ-KISSの記事にまとめています。

上場から逆算する|東証グロース市場の基準と持株比率

資本政策は、出口を決めてから逆算します。上場を目指す場合、株主構成が東証の基準に合っているかを見ます。

JPXの上場審査基準(グロース市場、2023年4月1日現在の掲載)では、新規上場時の形式要件は次のとおりです。

項目 基準
株主数(上場時見込み) 150人以上
流通株式時価総額 5億円以上
流通株式比率 25%以上

流通株式比率25%は、創業者や役員、大口の株主が持つ株式を除いた「市場に出回る株式」の割合です。JPXの定義では、役員(役員持株会を含む)や特別利害関係者の保有分は流通株式に含まれません。上場株式数の10%以上を持つ株主の保有分も、投資信託の組入分など一部を除き流通株式として扱われません。

つまり、投資家やSOの保有分が大きいと、上場時に市場へ出せる株式が足りなくなります。上場時に公募や売出しで放出する株数を、持株比率の段階で見込んでおく必要があります。

優先株の扱いにも注意が必要です。EY Japanは、優先株式を残したままではIPOができないのが原則で、取得条項で普通株へ転換しておくと説明しています。JPXの審査基準でも、上場申請の対象となる株式の種類に要件があります。

上場後の基準も変わります。JPXによると、グロース市場の時価総額に関する上場維持基準は、現在の「上場10年経過後に40億円以上」から、2030年3月1日より「上場5年経過後に100億円以上」に見直されます。上場時点の資本政策だけでなく、上場後の成長も見込んだ設計が求められます。IPOまでの準備は、IPO準備チェックリストで確認できます。

資本政策を決める手順

資本政策は、次の順で組み立てると整理しやすくなります。

  1. 出口(上場、M&Aなど)と、そこに至る年数の仮置きを決める
  2. 出口時点で創業者に残したい持分比率を決める
  3. 各ラウンドで渡してよい上限を、逆算して配分する
  4. SO枠を、採用計画から必要数を見積もって確保する
  5. 調達額に応じて、普通株・優先株・コンバーティブル型を選ぶ
  6. キャップテーブルを作り、ラウンドごとに更新する

自社の調達の進め方は、スタートアップの資金調達 完全ガイドに全体像があります。実際の資金調達の動きは、CFO.Mediaの週次の資金調達速報でも確認できます。

契約と登記に関わる部分は、弁護士や司法書士への確認が欠かせません。NEDOの手引も、全体像のあとは弁護士、会計士、税理士などに確認するよう勧めています。

よくある質問

資本政策はいつから考えるべきですか?

最初の外部調達の前です。NEDOの手引は、持分比率を後から修正するのは基本的に不可能と考えるべきだとして、最初の調達から将来を見据えることを求めています。

創業者の持株比率はどこまで下がっても問題ありませんか?

一律の基準はありません。判断の軸は、重要な意思決定(取締役の選任、増資、M&Aなど)を自社で動かせるかどうかです。株主間契約で決まる拒否権の範囲もあわせて確認します。

種類株は必ず発行する必要がありますか?

必須ではありません。NEDOの手引は、小さな調達では普通株、大きな調達では種類株という考え方が一般的としています。種類株は手間とコストが増えるため、調達額と投資家の要望で決めます。

上場するとき、種類株はどうなりますか?

優先株式を残したままのIPOは原則できないため、EY Japanの解説では取得条項で普通株に転換します。転換の条件は、投資契約の段階で確認しておきます。

出典

  • NEDO「研究開発型ベンチャー企業の資本政策立案の手引」
  • 経済産業省「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」
  • 経済産業省 ベンチャー投資等に係る制度検討会報告書「ベンチャーファイナンスの進化によるベンチャーエコシステムの活性化に向けて」(2015年3月)
  • 経済産業省「『コンバーティブル投資手段』活用ガイドライン」
  • 日本取引所グループ「上場審査基準概要(グロース市場)」「上場維持基準(グロース市場)」「流通株式(上場維持基準の詳細)」
  • EY Japan「スタートアップ企業への投資における優先株式と諸契約について」(2021年5月9日)
CFO.Ai

3分のチャットで、あなたに合う投資家・補助金・調達の相場感がわかる。無料で使えます。

C
Author
CFO.Media編集部

CFO.Media編集部では、スタートアップの資金調達・財務戦略に関する最新情報をお届けしています。