ベンチャーデットは、株式を発行せずに成長資金を借りられる手段として、シリーズA以降の資金調達で選択肢に入ってきました。ただし、実際に損得を分けるのは「借りられるか」よりもベンチャーデットの契約条件です。金利が低くても、新株予約権の割合が大きければ希薄化が残りますし、財務制限条項が厳しければ、次のラウンドが遅れた局面で一括返済を迫られます。
本記事では、市場の全体像ではなく、契約書やタームシートを受け取った段階で何を見るかに絞って解説します。市場動向はベンチャーデット市場の現在地、制度の基本はベンチャーデットとはをご覧ください。
契約条件は5つに分けて読む
ベンチャーデットに法律上の統一された定義はなく、貸し手ごとに商品設計が異なります。そのため、金利だけで比較せず、次の5点を貸し手ごとに並べて読みます。
| 確認項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 新株予約権 | 付与の有無・割合・行使価額 |
| 金利と返済 | 水準・据置期間・返済方式 |
| 財務制限条項 | 基準値・未達時の効果 |
| 期限前返済 | 新株予約権の扱い |
| 保証・担保 | 経営者保証の有無 |
新株予約権(ワラント)の割合と行使価額
新株予約権付融資では、貸し手が融資と同時に新株予約権を受け取ります。経営者が確認すべきは、割合、行使価額、行使期間の3つです。
日本政策金融公庫の「スタートアップ支援資金」では、新株予約権付融資の条件が公開されています。融資と社債の合計限度は20億円で、取得する新株予約権は、行使したものとして算出した発行済株式総数の50%以内が原則です。行使価額は取得時の株式の時価、発行価額は無償、予約権割合は原則100%(個別事情により10%を下限に決定)とされています。予約権割合は「行使価額の総額÷融資金額」で定義されています。
この定義を使うと、希薄化の規模を概算できます。仮設例として、融資額1億円、予約権割合30%とすると、行使価額の総額は3,000万円分です。融資後の株式価値を10億円と置けば、全量を行使した場合の希薄化は約3%です。同じ1億円をエクイティで調達する場合の約10%と比べて、希薄化を抑えられることがわかります。
一方で、割合と行使価額は貸し手との交渉事項です。りそな銀行のベンチャーデットは、新株予約権の有無や付与割合を相談のうえで決めるとしています。新株予約権が付かない設計もあるため、タームシートでは「付与の有無」から確認します。
手続面では、非公開会社が第三者割当で新株予約権を発行するには、株主総会の特別決議が必要です(会社法238条2項、309条2項6号)。有利発行に当たらない場合も同様です。既存の投資契約に、新株予約権の発行や一定額以上の借入れを事前承諾事項とする条項がないかも、契約前に確認します。
金利・返済方式は貸し手の類型で違う
金利と返済方式は、公開されている条件でも貸し手ごとに大きく異なります。
| 貸し手 | 金額・期間 | 金利・返済 |
|---|---|---|
| 日本政策金融公庫 | 20億円まで・20年以内 | 基準利率(上限3.0%) |
| りそな銀行 | 5,000万〜5億円・1〜5年 | 個別相談 |
| Funds | 1〜5億円・12〜36か月 | 5〜10%前後・満期一括 |
公庫は返済期間が20年以内(据置10年以内)と長く、新株予約権は原則として上場時などに経営責任者へ売却する設計です。公庫が新株予約権を行使して株式を取得することはありません。りそな銀行は、設立3年以上でシリーズA以降かつVCからの調達実績があるスタートアップを対象にしています。Fundsのファンドは金利が5〜10%前後で、新株予約権を付す場合もあり、無担保・無保証が原則、審査期間は資料受領後1〜2か月前後です。
返済方式も確認点です。みずほ銀行の解説によると、一定期間は元本据置とし、その後に月次または四半期で分割返済するケースがあります。満期一括の場合は、返済原資を次のラウンドの調達金とするのか、売上とするのかを、契約前に決めておく必要があります。
財務制限条項(コベナンツ)と期限の利益喪失
財務制限条項は、財務指標や業績目標を一定水準に保つ義務を契約に入れるものです。みずほ銀行の解説は、未達の場合に条件変更や一括返済を求められることがあると説明しています。Fundsのファンドも、コベナンツは個社ごとの相談としています。
赤字のスタートアップでは、利益ベースの指標は使いにくいため、現預金残高を基準にする設計が考えられます。確認するのは次の3点です。
- 基準値が月次バーンレートの何か月分に相当するか
- 未達のとき、自動で期限の利益を失うのか、貸し手の通知で初めて失うのか
- 猶予期間や免除(ウェイバー)の規定があるか
次のラウンドが計画より3か月遅れた場合に現預金が基準値を割るか、事業計画で先に試算しておきます。契約後に気づくと、交渉余地がほとんどありません。
期限前返済と新株予約権の扱い
次のラウンドで資金に余裕ができれば、早期に完済したくなります。このとき論点になるのが、返済後に新株予約権がどうなるかです。
金融法委員会の検討資料では、融資の期限前弁済があっても、貸し手が最初に受け取った新株予約権を返還や償却せずにそのまま持ち続ける扱い(不返還扱い)を一つのモデルとして想定しています。同資料は、新株予約権が利息制限法・出資法の「利息」に当たるかどうかについて議論が一致しておらず、実務が不安定な状況にあるとも指摘しています。
経営者の側から見ると、早期に完済しても新株予約権が残る契約があり得ます。契約書では、完済後の新株予約権の帰属、期限前返済の手数料、返済できない期間(ノンコール期間)の有無を確認します。
経営者保証の有無
新株予約権付融資でも、代表者が連帯保証を求められる場合があります。西村あさひ法律事務所のニューズレター(2023年10月)は、経営株主の個人保証について、政策背景から相当慎重な判断が必要だと整理しています。公庫のスタートアップ支援資金は無保証人、北洋銀行の「北洋ベンチャーデット」(2025年4月取扱開始)も無保証人です。保証の扱いは商品ごとに明確に書かれているため、タームシートでも必ず確認します。経営者保証の動向は経営者保証ガイドラインの実装実態で扱っています。
契約前に確認する7項目
タームシートを受け取ったら、次の7項目を貸し手別に表へ書き出します。
- 新株予約権の付与の有無、割合、行使価額、行使期間
- 金利、据置期間、返済方式(分割か満期一括か)
- 融資の実行条件と、段階実行の有無
- 財務制限条項の基準値と、未達時の効果
- 期限前返済の手数料と、完済後の新株予約権の扱い
- 経営者保証と担保の有無
- 既存の投資契約・借入契約との整合(事前承諾、追加借入の制限)
よくある質問
ベンチャーデットには必ず新株予約権が付きますか。
いいえ。付与は貸し手と案件ごとに決まります。公庫のように新株予約権付融資を明示する商品もあれば、りそな銀行のように有無や割合を相談で決める商品もあります。
新株予約権を付けると金利は下がりますか。
新株予約権を無償で発行する場合、貸付利率を通常より低く設定するなど、新株予約権の価値に見合う対価が会社に与えられている設計が一般に想定されます。実際の水準は貸し手ごとの交渉で決まるため、複数社のタームシートを並べて比較してください。
コベナンツに抵触したらすぐ一括返済ですか。
契約次第です。条件変更で済む場合もあれば、一括返済を求められる場合もあります。猶予期間と免除の規定を、契約前に条文で確認してください。
まとめ
ベンチャーデットの契約条件は、金利ではなく5点を組み合わせて比較します。
- 新株予約権は、付与の有無・割合・行使価額を確認する
- 返済方式は、返済原資とセットで決める
- コベナンツは、次のラウンドが遅れた場合で試算する
- 期限前返済は、完済後の新株予約権の扱いまで見る
- 経営者保証は、商品ごとの記載を確認する
条件は貸し手と時期で変わるため、検討時には各社の公式ページとタームシートの最新内容を確認してください。
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出典
- 日本政策金融公庫「スタートアップ支援資金」(https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/startup.html)
- りそな銀行「ベンチャーデット」(https://www.resonabank.co.jp/hojin/service/venture_debt/)
- Funds Startups「Funds Venture Debt Fund - I」(https://startups.funds.jp/product/funds-venture-debt-fund-i/for-startups)
- 北洋銀行「北洋ベンチャーデットの取扱いを開始しました」(2025年4月15日、https://www.hokuyobank.co.jp/announcement/pdf/20250415_075594.pdf)
- みずほ銀行「ベンチャーデットとは?資金調達手段としての特徴・メリット・注意点を解説」(https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/account/tips/topic_137.html)
- 西村あさひ法律事務所「金融ニューズレター」2023年10月27日号(https://www.nishimura.com/sites/default/files/newsletters/file/finance_law_231027_2_ja.pdf)
- 金融法委員会「新株予約権への上限金利規制の適用関係に関する検討」(https://www.flb.gr.jp/jdoc/publication64-j.pdf)
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