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地域別スタートアップ資金調達動向2026|東京一極集中の実態と地方VCの台頭

大野 祐生
地域別スタートアップ資金調達動向2026|東京一極集中の実態と地方VCの台頭

地域シェアは公開統計(2022〜2023年実績)、調達事例は2024〜2025年の公表情報に基づく

「スタートアップ支援は東京だけの話」という認識はどこまで変わったか。調達件数・金額ともに首都圏集中が続く一方、地方銀行系VCと自治体ファンドが着実に存在感を増している。本稿では地域別の調達動向を公開データで確認し、地方スタートアップが取りうる資金戦略の実態を、実際の調達事例とともに整理する。

首都圏への集中は続いている

立地で約66%、金額で約8割が東京

国内スタートアップの地域分布を見ると、東京都に本社を置く企業は全国の約66%を占める。資金の流れはさらに偏っており、調達金額ベースでは東京都だけで約8割が集中する(経済産業省のスタートアップ政策資料が引用するユーザベース「Japan Startup Finance 2024」、2023年実績)。大型ラウンドが東京に集中するため、金額シェアは件数シェアよりも高く出る。

一方、件数ベースの集中度は緩やかに下がっている。東京の調達件数シェアは2012年の約84%から2022年には約71%へ低下した(STARTUP DB独自調査)。大阪・京都・福岡・愛知などが少しずつシェアを伸ばしており、件数では「東京一極」がじわじわ崩れつつある。

ただしVC本社が東京に集積し、CVCも渋谷・六本木エリアに集中している構造は変わっていない。ファーストコンタクトの機会格差は、移動コストや情報の非対称性として根強く残る。

資金調達ステージ 首都圏への集中度 地方の主要拠点
プレシード・シード 相対的に低い 福岡、大阪、名古屋、北海道
プレシリーズA 中程度 福岡、大阪
シリーズA 高い 福岡、大阪
シリーズB以降 ほぼ首都圏集中 大型は東京・海外VC接続が前提

ステージ別の集中度は編集部による方向性の整理。公開統計で確認できるのは全国の件数・金額シェアまでで、ステージ別の地域内訳は非公表のため数値は示さない

シード以前なら地方でも案件が動いている

シード以前のアーリーステージに限ると、地方の比率は上がる。エンジェル投資・J-KISS・クラウドファンディングを活用した小規模な資金調達は、北海道・福岡・大阪・名古屋圏を中心に活発だ。STARTUP DBの分析でも、設立まもないシード・アーリー期は地方の存在感が相対的に大きく、成長期以降ほど投資家の集積する東京に集中する傾向が示されている。

問題はシードからシリーズAへのギャップだ。この段階で地方在住のまま次の投資家を探す難しさに直面し、「東京移転か拡張断念か」の二択に追い込まれるケースがある。地方スタートアップの成長ボトルネックとして繰り返し指摘される構造だ。

地方VCの台頭—地銀系・自治体ファンドの変化

地方銀行系VCが活動を拡大している

2024〜2025年にかけて、地方銀行がVC部門を設立・強化する動きが相次いだ。収益環境が厳しい地銀にとって、スタートアップ支援は地域経済の活性化と自行のビジネスモデル転換を同時に狙える取り組みとして注目されている。

地域に根ざした投資家の層も厚みを増している。京都の独立系フューチャーベンチャーキャピタルは関西で地域最多級の投資実績を持ち、愛知・静岡では静岡キャピタルや信金キャピタルといった金融系プレイヤーからの調達が多い(STARTUP DB調べ)。デットとエクイティを組み合わせ、純粋なエクイティ投資より希薄化を抑えながら成長資金を供給する例も増えており、創業者にとって受け入れやすい形態になっている。

自治体ファンドと補助金の組み合わせが機能している

自治体による支援では、福岡市・北九州市・仙台市・札幌市などが創業支援ファンドや補助金制度の整備で存在感を示している。注目されるのは、補助金・自治体系ファンド・地銀デット・エクイティを組み合わせるハイブリッド型の資金戦略だ。

北海道帯広市のファームノート(酪農・畜産テック)はその典型例だ。2024年に総額8.4億円を調達し、引受先には札幌イノベーションファンド、明治ホールディングス、日本政策投資銀行、出光興産などが並ぶ。累計調達額は約53億円で、北洋銀行の「サステナブル経営支援ローン」も併用する。自治体系ファンド・事業会社・地銀デットを束ねた設計で、地域の畜産という現場基盤を全国市場につなげている。

自治体補助金で初期開発コストをカバーしながら地銀VCやファンドからシード資金を調達するモデルは、エクイティ単独に比べて1〜2年分のランウェイ延長をもたらしうる。国のスタートアップ育成5か年計画の地域展開施策とも方向性が合致しており、今後の拡大が期待される組み合わせだ。

地方で調達を成立させている企業の共通点

「地域課題×全国市場」の交差点を狙う

地方で複数ラウンドを成功させているスタートアップに共通するのは、地域特有のデータや顧客基盤を持ちながら、全国展開のシナリオが描ける事業設計だ。農業テック・医療DX・物流最適化がその典型で、地方の現場データと東京系CVCの需要が合致しやすい。

「地方向けサービス」として定義してしまうと東京系VCの審査を通りにくい。逆に、地方に根差した資産(データ・顧客・産業知識)をスケールの起点として使う設計なら、地方拠点のまま大型調達が実現するケースも出てきている。

大学発ディープテックが地方発・大型調達を牽引する

地方拠点のまま大型調達を実現している代表例が、地方大学発のディープテックだ。

QPS研究所(福岡市・九州大学発)は、小型SAR衛星「QPS-SAR」を開発し、上場までに累計約100億円を調達。2023年に東証グロースへ上場した後も、スカパーJSATなど3社を引受先とする152億円規模の第三者割当や、総額62億円のシンジケートローンなど、エクイティ・デット・公募を組み合わせて資金を確保している。

マイクロ波化学(大阪市・大阪大学発)は、マイクロ波を使った省エネ・脱炭素型の化学プロセス技術を事業化し、シリーズDまで調達を重ねたうえで2022年に東証グロースへ上場した。地方拠点の大学発ディープテックが、研究開発フェーズの大型調達から資本市場まで到達した例だ。

共通するのは、地域や大学に根ざした技術・データを起点にしながら、全国・世界を市場に設定している点だ。「地方発」であることが調達のハンディにならない事業設計になっている。

調達手段の多様な組み合わせがCFO視点の武器になる

東京のスタートアップはエクイティ中心の調達が主流だが、地方では複数の資金源を組み合わせるアプローチが取りやすい環境にある。自治体補助金・地銀創業融資・地銀系VC・エンジェルを組み合わせることで、各ラウンドの希薄化を抑えた設計が可能だ。

CFO視点では、「返済義務の有無」「希薄化の程度」「条件ロック期間」を整理したうえで最適な組み合わせを設計することが重要になる。地方ならではの調達手段の多様性を活かすか否かが、キャッシュ戦略に大きく影響する。

東京一極集中は変わるか—今後の論点

変化の兆しはあるが、構造的なハードルも残る。

エコシステムの密度差として、東京には人材・投資家・事業会社が物理的に集積している。1日に複数の意思決定者に会える機動性は地方では再現しにくく、リモートで補える範囲に限界がある。

大型後半ラウンドの資金源不足も課題だ。地方VCは小〜中規模ファンドが多く、シリーズB以降をリードできる体力は限られる。拡大フェーズでは東京系VCや海外VCとの接続は不可欠になる。

人材の流動性もネックになる。エンジニア・ビジネス人材はまだ東京集中が強く、採用競争力の観点では地方拠点はリモート前提でないと不利だ。

一方で変化の方向性は明確だ。地銀VCのキャパシティ拡大、リモートネイティブ組織の普及、政府の地方スタートアップ支援施策が重なれば、件数ベースで進む地方シェアの上昇が、いずれ金額ベースにも波及していくシナリオは現実味を帯びる。

まとめ

  • 立地は全国の約66%、調達金額の約8割が東京に集中。一方で件数シェアは2012年の約84%から2022年は約71%へ低下傾向
  • 地方銀行系VC・自治体ファンドの拡大により、シード〜シリーズAをカバーする地方の資金源が増えている
  • 補助金・自治体ファンド・地銀デット・エクイティの組み合わせは、地方スタートアップが1〜2年のランウェイ延長を実現する現実的な手段(例: ファームノート)
  • 地方発・大型調達は大学発ディープテックが牽引(例: QPS研究所、マイクロ波化学)。「地域課題×全国市場」の事業定義が鍵
  • 東京一極集中の解消は短期では難しいが、件数で進む変化が金額にも波及する余地はある

CFO.Mediaでは、スタートアップの資金調達動向・経営トレンドを週次・月次レポートと業界分析として継続的に発信しています。地域別・業種別の最新動向を経営判断に活かしたい方は、ぜひご覧ください。

出典

大野 祐生
Author
大野 祐生

米大学卒業後、NYでコンサルティング・NPO・起業を経験。帰国後、楽天・デロイト トーマツ ベンチャーサポートにて海外展開およびベンチャー支援に従事し、14カ国・500社超の事業成長を支援。2021年にThe CXO創業。複数ベンチャーのCXOとして参画し、実践知に基づく知見体系・フレームワークの構築を進めている。