インボイス制度は2023年10月に始まりましたが、経過措置の一部は2026年9月30日で区切りを迎え、令和8年度税制改正で内容が見直されました。スタートアップの経理は、2026年10月1日以後に行う課税仕入れから新しい割合(70%)で経費を処理する必要があります(課税期間の途中でも、10月1日以後の仕入れから切り替わります)。
この記事では、請求書を発行する側と受け取る側の両方について、国税庁の公開情報をもとに実務の要点を整理します。制度の細部は個別の事情で結論が変わるため、最終判断は顧問税理士か所轄の税務署で確認してください。
インボイス制度の基本と2026年10月の改正点
インボイス制度とは、売手が買手に対して正確な適用税率と消費税額を伝える請求書(適格請求書)を交付し、買手がその保存を条件に仕入税額控除を受ける仕組みです。仕入税額控除とは、受け取った消費税額から支払った消費税額を差し引く計算を指します。
インボイスがない仕入れや経費は、原則として仕入税額控除ができません。ただし簡易課税制度や2割特例・3割特例を使う場合は、受け取ったインボイスを保存しなくても消費税の計算ができます。
免税事業者等からの仕入の控除割合
インボイス発行事業者以外(免税事業者や消費者)からの課税仕入れには、仕入税額相当額の一定割合を控除できる経過措置があります。令和8年度税制改正で、この措置は2年間延長され、割合の下がり方もなだらかになりました。
| 期間 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 〜2026年9月30日 | 80% |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% |
| 2031年10月1日以後 | 控除不可 |
改正前は2026年10月から50%に下がる予定でした。70%に据え置かれたことで、フリーランスや小規模な業務委託先への支払いが多い会社ほど負担が軽くなります。
見落としやすいのが上限額です。一のインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れの合計が、その年または事業年度で1億円(改正前は10億円)を超える場合、超えた部分には経過措置を適用できません。この見直しは、令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。
2割特例の終了と3割特例
免税事業者がインボイス発行事業者になった場合に、納付税額を売上税額の2割にできる2割特例は、令和8年9月30日までの日の属する課税期間が最後です。個人事業者に限り、令和9年分・令和10年分は3割特例(納付税額を売上税額の3割とする特例)に切り替わります。
法人は延長されません。スタートアップの多くは法人のため、2割特例が終わった後は簡易課税か本則課税のどちらかで申告する前提で、早めに試算しておくのが現実的です。
なお、資本金1,000万円以上の新設法人など、インボイス制度と関係なく課税事業者になる場合は、もともと2割特例の対象外です。
請求書を発行する側の実務
インボイス発行事業者は、取引先の課税事業者から求められたときにインボイスを交付する義務があります。交付した写しも保存が必要です。登録を受けると課税事業者として消費税の申告が必要になる点は、登録前に必ず確認してください。
インボイスの記載事項
インボイスに必要な記載事項は次の6つです。請求書に限らず、領収書や納品書でも、これらが記載されていればインボイスになります。
- 交付先の氏名または名称
- 売手の氏名または名称と登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨を含む)
- 10%・8%ごとの対価の総額と適用税率
- 10%・8%ごとの消費税額等
登録番号は、登録後に税務署から通知されます。自社の請求書テンプレートに登録番号の欄があるか、税率ごとの区分が入っているかを、運用開始前に点検しておくと手戻りが減ります。
簡易インボイスが使える場面
小売業・飲食店業・タクシー業など不特定多数に販売する業種では、記載事項の一部を省いた簡易インボイスを交付できます。宛先の省略と、税率または税額のどちらか一方の記載で足りる形です。受け取った書類に宛名がなくても、不備とは限りません。
請求書を受け取る側の経費処理
受け取る側の実務で重要なのは、仕入先ごとに処理を分けることです。取引先が増えるほど、請求書の都度判断では漏れが出ます。
仕入先の区分と処理
| 仕入先 | 仕入税額控除 | 保存するもの |
|---|---|---|
| インボイス発行事業者 | 全額 | インボイス |
| 免税事業者等 | 70%(2026年10月〜) | 区分記載請求書等と同様の書類+帳簿 |
| 1万円未満の課税仕入れ | 全額(少額特例) | 帳簿のみ |
免税事業者等からの仕入れで経過措置を使うには、区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等の保存に加えて、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を記載した帳簿の保存が必要です。会計ソフトで仕入先ごとに摘要欄や専用の区分を設けておくと、記載漏れを防げます。
税抜経理をしている場合、所得税・法人税の計算では、仮払消費税等の額のうち経過措置の割合(80%・70%・50%・30%)に相当する額だけを仮払消費税等とし、残りを仕入れ等の価額として扱うのが原則です。控除できない部分は費用や資産の取得価額に含まれる、と理解しておくと混乱しません。
少額特例(1万円未満)の期限
基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者は、税込1万円未満の課税仕入れを、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除できます。適用期間は令和5年10月1日から令和11年9月30日までの間に行う課税仕入れです。
判定の単位は、1回の取引の課税仕入れに係る金額(税込み)です。少額な消耗品や交通費が多いスタートアップでは、インボイスの回収負担を大きく減らせる措置です。
登録するかどうかの判断軸
自社がインボイス発行事業者になるかどうかは、取引先に課税事業者がどれだけいるかで決まります。取引先が課税事業者中心の場合、登録していないと取引先が仕入税額控除を受けられず、取引条件の見直しを求められる可能性があります。
判断のときは、次の3点を並べて比較すると整理しやすくなります。
- 主要な取引先が課税事業者か、消費者か
- 登録した場合の消費税の納付額(本則課税・簡易課税の試算)
- 登録申請から運用開始までの事務負担
すでに登録済みで、2割特例の終了後の負担が気になる場合は、簡易課税制度への移行を検討できます。2割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間に係る確定申告期限までに、簡易課税制度選択届出書を提出する流れです。ただし、令和8年9月30日以前に終了する課税期間が翌課税期間にあたる場合は、その課税期間中が期限になるため、日付の確認が欠かせません。
取引先を確認する運用のコツ
受け取ったインボイスの登録番号が実在するかは、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで確認できます。新規の取引先は、契約時に登録番号を回収して公表サイトで照合し、台帳に残しておく運用が実務に向いています。
経理体制づくり全般はスタートアップの経理体制構築、月次の締めの進め方は月次決算の進め方、年次の申告は決算・税務申告ガイドも併せて参照してください。
よくある質問
Q1. 2割特例が終わったら、法人は何を選べばよいですか?
法人は3割特例の対象外のため、本則課税か簡易課税から選びます。簡易課税は事業区分ごとのみなし仕入率で計算するため、経費の集計が不要になる反面、実際の仕入が多い場合は本則課税のほうが有利になることもあります。事前に両方で試算してください。
Q2. 免税事業者の取引先に支払う場合、何を保存すればよいですか?
区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等と、経過措置の適用を受ける旨を記載した帳簿を保存します。2026年10月以降の課税仕入れは70%が控除できる割合です。
Q3. 1万円未満の経費は、領収書がなくても処理できますか?
少額特例の要件を満たす事業者は、帳簿に一定の事項を記載すれば、インボイスの保存なしで仕入税額控除ができます。帳簿に記載する事項は国税庁の案内で確認してください。
まとめ
2026年10月のインボイス制度の見直しで、実務上押さえるべき点は次の3つです。
- 免税事業者等からの仕入の控除割合は、2026年10月から70%になる
- 2割特例は2026年9月末で終了し、個人のみ3割特例に移る(法人は延長なし)
- 1万円未満の少額特例は、令和11年9月30日まで使える
自社の取引先の内訳と、直近の課税売上高を確認し、本則課税と簡易課税のどちらが有利かを一度試算しておくと、次の申告で慌てずに済みます。
出典
- 国税庁「インボイス制度について」(2026年10月時点で確認)
- 国税庁「令和8年度 税制改正特集(インボイス制度)」
- 国税庁「インボイス制度の概要(経過措置・少額特例・2割特例)」
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