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ベンチャーデット市場の現在地|2026年、スタートアップ資金調達の新潮流

大野 祐生
ベンチャーデット市場の現在地|2026年、スタートアップ資金調達の新潮流

スタートアップの資金調達といえば「エクイティ(株式発行)」が主流でした。しかし2026年現在、日本でもベンチャーデットという選択肢が急速に広がっています。2026年2月27日に開催された「ベンチャーデットサミット2026」には、あおぞら企業投資、商工組合中央金庫、Funds Startupsなど主要プレイヤーが集結し、市場の拡大を象徴する出来事となりました。

本記事では、CFO.Mediaが追跡する資金調達データをもとに、ベンチャーデット市場の現状・調達事例・エクイティとの使い分け方を解説します。

ベンチャーデットとは何か

ベンチャーデットとは、株式を発行せずに資金を調達するデットファイナンスの一種です。従来の銀行融資が「担保・実績」を重視するのに対し、ベンチャーデットは企業の将来性をより強く評価します。

従来のデットとの違い

従来の銀行融資では、不動産や設備などの有形資産を担保として求められます。しかし創業期のスタートアップには担保となる資産がほとんどありません。ベンチャーデットは、ビジネスモデルの将来性、ARR(年間経常収益)などの成長指標、または特定の技術力を評価の鍵とし、無担保または新株予約権を条件に融資を実行します。

近年、事業の将来性やキャッシュフローを重視した融資を促進する法制度の整備が進んでいます。これにより、スタートアップが有形資産に乏しくても、ノウハウや顧客基盤などの無形資産を担保評価に含めることが可能になり、デット調達の選択肢がさらに広がります。

エクイティとの違い

エクイティファイナンス(株式発行):
既存株主の持ち株比率が希薄化する。返済義務なし、金利なし。投資家が経営に関与する場合がある。

ベンチャーデット(融資):
株式希薄化を抑制できる(新株予約権付きでも25〜35%程度)。返済義務あり、金利が発生。経営権は創業者に残る。

エクイティ調達で発行する株式数を100とした場合、ベンチャーデットでは調達額の25〜35%程度の新株予約権発行で済むため、希薄化を大幅に抑えられます。

2026年の市場規模と動向

急拡大する日本市場

英調査会社プレキンによると、2024年のファンド経由でのベンチャーデットの新規供給は前年比7倍の4億6,900万ドル(約700億円)に達しました。日本のベンチャーデット市場は、現在の約2,000億円規模から今後5年以内に1兆円を超える可能性があると予測されています。

2025年は、IPOハードルの上昇や株式市場の変動により、株式中心の調達戦略の限界が一層明確になった年でした。このため、デットを組み合わせた多角的な資本政策の重要性が増し、ベンチャーデット市場の拡大を後押ししました。

2025年の主要ファンド組成事例

2025年には、以下のベンチャーデット専門ファンドが相次いで設立されました。

ファンド名 設立時期 出資者 規模
HYBRID ANNEX1号投資事業有限責任組合 2月 あおぞら企業投資、日本政策投資銀行グループ
UPSIDER BLUE DREAM Growth Fund 2号 7月 みずほフィナンシャルグループ、UPSIDERキャピタル 143億円
RFC Venture Debt Fund 1号 11月 りそな銀行、Fivot

UPSIDER BLUE DREAM Fundは、2024年9月末時点で約80億円の融資実績を積み重ねています。みずほ銀行、りそな銀行、あおぞら銀行など大手金融機関の本格参入により、市場の信頼性と規模が急速に拡大しています。

地方銀行・証券会社の参入

2025年9月には琉球銀行がBORベンチャーデットを開始し、ミドル期以降のスタートアップを対象に2億円以下の融資を提供しています。また、東海東京インベストメントとSDFキャピタルが資本業務提携を行い、2026年に組成予定の2号スタートアップ向けデットファンドへの出資協力を発表しました。

あおぞら銀行は2026年3月期までにベンチャーデットなどを130件まで増加させる計画を掲げ、静岡銀行は2027年度までにベンチャーデット実行額1,000億円を目指しています。地方銀行にとって、地元スタートアップとの関係構築は新たな成長領域であり、今後もプレイヤーの多様化が進むと見られます。

ベンチャーデットのメリット・デメリット

メリット

1. 株式希薄化の大幅な抑制

エクイティ調達では、投資額に応じて既存株主の持ち株比率が希薄化します。創業者の持ち株比率が下がりすぎると、経営権を失うリスクや、次のラウンドでの資本政策に制約が生じます。ベンチャーデットは、新株予約権を付与しない純粋な融資の場合、希薄化はゼロです。新株予約権付き融資でも、エクイティと比較して希薄化を25〜35%程度に抑えられます

2. 経営権の維持

ベンチャーデットの貸し手は「債権者」であり、返済が完了すれば関係は解消されます。エクイティ投資家のように取締役会への参加や経営方針への関与を求めないため、創業者が経営の主導権を保ちやすくなります。

3. 調達スピードの速さ

エクイティ調達では、投資家との面談・DD(デューデリジェンス)・契約交渉に数ヶ月かかるケースが一般的です。一方、ベンチャーデットは審査期間が短く、より機動的な資金調達が可能です。急成長期にランウェイ(資金が尽きるまでの期間)を延ばし、次のエクイティラウンドまでの時間を稼ぐ用途にも向いています。

デメリット

1. 返済義務と金利負担

エクイティと異なり、ベンチャーデットには返済義務と金利が発生します。スタートアップ向けであるため、金利は通常の融資と比較して高くなる傾向にあります(金利2〜8%程度)。売上が安定していない段階で返済負担を抱えると、キャッシュフローを圧迫するリスクがあります。

2. 新株予約権による将来の希薄化リスク

貸し手に新株予約権を付与してベンチャーデットを実施する場合、将来的に新株予約権が行使されると、エクイティ調達と同様の希薄化が発生します。短期的には希薄化を避けられても、長期的には株主構成に影響を与える可能性があります。

3. 適用条件の制約

ベンチャーデットは、一定の成長指標(ARR、売上成長率など)を満たしているスタートアップを対象とするケースが多く、創業直後のプレシード期には活用しにくい場合があります。また、エクイティ調達の実績があることが前提となる場合もあります。

エクイティとベンチャーデットの使い分け

欧米では、ベンチャー企業がエクイティとデットを戦略的に組み合わせることが一般的です。日本でも、資本政策の選択肢として両者を使い分ける動きが広がっています。

使い分けの判断基準

場面 エクイティが適している ベンチャーデットが適している
調達目的 大型資金調達、事業転換 ランウェイ延長、短期的な成長資金
事業フェーズ プレシード、シード、シリーズA シードラウンド後、シリーズA以降
売上・成長率 まだ実績が少ない段階 売上が立ち始め、成長率が見える段階
資本政策 希薄化を許容できる 希薄化を最小限に抑えたい
経営権 投資家との協力関係を重視 創業者主導の経営を維持したい

典型的な活用パターン

パターン1: エクイティ調達後のランウェイ延長
シリーズAで5億円を調達した後、売上成長に伴いベンチャーデットで2億円を追加調達。次のシリーズBまでの時間を稼ぎ、バリュエーションを高めてから再度エクイティ調達を行う。

パターン2: 設備投資・運転資金の確保
SaaS企業がARRの成長を根拠にベンチャーデットで1億円を調達し、エンジニア採用や広告投資に充てる。エクイティ調達枠を温存し、大きな事業転換時に使う。

パターン3: ブリッジファイナンス
次のエクイティラウンドが決まっているが、クロージングまで数ヶ月かかる場合、つなぎ資金としてベンチャーデットを活用する。

CFO視点でのベンチャーデット活用のポイント

1. 返済計画の現実性を確認する

ベンチャーデットは返済義務があるため、売上成長とキャッシュフローの見通しが重要です。楽観的な売上予測ではなく、保守的なシナリオでも返済可能かをシミュレーションしてください。

2. 資本政策全体の中で位置づける

ベンチャーデットは「エクイティの代替」ではなく「エクイティとの併用」が基本です。IPOまでの資本政策を描いた上で、どのタイミングでデットを入れるかを計画してください。

3. 新株予約権の条件を精査する

新株予約権の行使価格、行使期間、希薄化率は契約ごとに異なります。将来のエクイティ調達時にどの程度の希薄化が発生するかを試算し、許容範囲内か確認してください。

4. 複数のプレイヤーを比較する

2026年現在、ベンチャーデット市場には銀行系、証券系、独立系など多様なプレイヤーが存在します。金利、融資条件、審査スピード、サポート内容を比較し、自社に合った調達先を選んでください。

まとめ

ベンチャーデット市場は、2026年現在、日本で急速に拡大しています。2024年の供給額は前年比7倍の約700億円に達し、今後5年で1兆円規模に成長する可能性があります。

ベンチャーデットの主なメリット:

  • 株式希薄化を大幅に抑制できる(エクイティの25〜35%程度)
  • 経営権を創業者が維持できる
  • エクイティより調達スピードが速い

ベンチャーデットの主な注意点:

  • 返済義務と金利負担が発生する
  • 新株予約権付きの場合、将来的に希薄化リスクがある
  • 一定の成長指標が必要で、プレシード期には活用しにくい

欧米では、エクイティとデットを戦略的に組み合わせることが標準的な資本政策です。日本でも、大手金融機関や地方銀行の参入により、ベンチャーデットは「使える選択肢」として確立されつつあります。資金調達の戦略を考える際には、エクイティだけでなく、ベンチャーデットも含めた多角的な視点で検討してください

大野 祐生
Author
大野 祐生

米大学卒業後、NYでコンサルティング・NPO・起業を経験。帰国後、楽天・デロイト トーマツ ベンチャーサポートにて海外展開およびベンチャー支援に従事し、14カ国・500社超の事業成長を支援。2021年にThe CXO創業。複数ベンチャーのCXOとして参画し、実践知に基づく知見体系・フレームワークの構築を進めている。