2026年下半期の採用トレンドを一言で言えば「売り手市場の高止まり」である。厚生労働省の統計では新規有効求人倍率が3.3倍で高止まりし、エンジニア採用難は構造的な問題として定着した。一方で外国人エンジニア採用は2026年4月の審査厳格化で難度が上がっている。公的統計から、スタートアップが取るべき採用戦略を整理する。
2026年下半期、エンジニア採用市場はどう動いているか
厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年7月分)」によると、ITエンジニアを含む専門的・技術的職業の新規有効求人倍率は3.3倍だった(2026年7月時点)。前月比は横ばいだが、2025年7月の3.4倍からはわずかに低下している。
市場は2026年4月に一時2.6倍まで落ち込んだ後、底打ちして安定推移している。求人数を追うフェーズから、自社に本当に必要な人材を見極める「質」重視の採用フェーズへ移行しているとの分析もある。求人倍率だけを見ると採用難が和らいだように映る。だが実態は「誰でもいいから採る」段階が終わっただけで、即戦力人材の争奪戦はむしろ激化している。
スタートアップにとってこの数値が意味するのは、求人媒体への掲載だけで母集団を形成する時代の終わりである。リファラル・スカウト・コミュニティ経由など複数チャネルを併走させる採用体制が前提になりつつある。
エンジニア採用難の構造ー人材不足の背景
エンジニア採用難の背景には、需要と供給の構造的なギャップがある。経済産業省が2019年に公表した「IT人材需給に関する調査」では、2030年に最大約79万人のIT人材が不足すると試算されている。中位シナリオでも約45万人、低位シナリオでも約16万人の不足という水準である。この調査は公表から年数が経っている。だがAI・データサイエンス・クラウドなど高度なIT知識を持つ「先端IT人材」の不足という構図は、2026年時点でも変わっていない。
一方で従来型のIT人材(保守運用など定型業務が中心の層)はむしろ供給過多になりうるとも指摘されている。つまりスタートアップが直面しているのは「エンジニア全般の不足」ではなく、「事業を前に進められる先端人材の不足」である。求人票の書き方や採用チャネルを変えるだけでは解決しない構造的な課題だと理解しておく必要がある。
外国人エンジニアという選択肢ー在留資格の基本
国内の人材プールが縮小する中で、外国人エンジニア採用を検討するスタートアップは増えている。代表的な在留資格は「技術・人文知識・国際業務」で、以下4つの要件を満たす必要がある。
- 学歴要件:大学(海外含む)・短大・日本の専門学校卒業のいずれか。学歴がない場合は実務経験10年以上で代替可能
- 専攻と業務の関連性:大学での専攻内容と実際の業務内容に関連性があること
- 企業の安定性:事業が適正に行われ、継続性が認められること
- 同等報酬:同一業務に従事する日本人と同等以上の賃金(大卒エンジニアの目安は月額25万円以上)
経済産業省が指定する情報処理技術試験の合格者は、学歴・実務経験要件が免除される特例ルートもある。
より優遇度の高い在留資格として「高度専門職」もある。学歴・職歴・年収・年齢・日本語能力・資格などを点数化し、70点以上で取得できる制度である。永住許可の要件も緩和され、70点以上で在留3年、80点以上で在留1年での申請が可能になる。ほかにも配偶者の就労緩和や親・家事使用人の帯同など、複数の優遇措置がある。年収・実績が伴う即戦力人材を採用する場合は、高度専門職の対象になるかを併せて確認する価値がある。
2026年4月の審査厳格化でスタートアップが注意すべき点
2026年4月、出入国在留管理庁は技術・人文知識・国際業務ビザの審査ガイドラインを改正し、審査を厳格化した。スタートアップの採用実務に直結する変更点は次の4つである。
- 学歴・業務関連性の詳細確認:履修科目や卒業論文と業務内容の関連性まで踏み込んで審査される
- 業務内容の実態調査強化:申請書の記載と実際の勤務内容が一致しているか、事業所への実地調査が行われる可能性がある
- 専門性の数値的証明:肩書きだけでなく、専門業務が業務全体に占める割合を数値で説明することが求められる
- 企業体制の精査:外国人雇用実績・離職率・同等報酬原則の遵守状況が審査対象になる
特に2は、スタートアップのように一人が複数役割を兼務する組織にとって影響が大きい。採用時点で「専門業務が何割を占めるか」を職務記述書レベルで説明できるようにしておく必要がある。
費用・期間の目安は、行政書士へ委託する場合でCOE申請(海外在住者)が10万〜15万円・標準1〜3ヶ月、在留資格変更許可申請(日本在住者)が8万〜10万円・標準1〜2ヶ月とされる。月給30万円で採用する場合、法定福利費(会社負担)が月4.5万〜5.1万円、初年度は生活サポート費として月1万〜2万円が上乗せされる想定になる。採用計画にはこの申請リードタイムとコストを織り込んでおく必要がある。
スタートアップが今すぐ着手すべきこと
以上を踏まえると、下半期の採用戦略で優先すべきは次の3点である。
第一に、採用チャネルの複線化である。求人倍率が高止まりする中、単一チャネルでの母集団形成は限界がある。リファラル・スカウト・技術コミュニティでの露出を組み合わせる体制が前提になる。
第二に、外国人エンジニア採用の検討を早期化することである。審査厳格化でリードタイムが伸びる可能性がある以上、必要になってから動き出すのでは遅い。職務記述書の整備や社内の受け入れ体制づくりは、採用ニーズが顕在化する前から着手する価値がある。
第三に、高度専門職の該当可否を確認することである。即戦力人材の年収水準が一定以上であれば、高度専門職のポイント計算を行う価値がある。永住要件の緩和は本人の定着意欲にも直結するため、採用競争力の差別化要因になりうる。
まとめ
2026年下半期のエンジニア採用市場は、求人倍率こそ安定してきたものの、先端人材をめぐる競争は依然として厳しい。国内人材のみでの充足が難しい局面では、外国人エンジニア採用が現実的な選択肢になる。一方で2026年4月の審査厳格化により、準備の緻密さが問われる局面に入っている。採用チャネルの複線化と、外国人採用を見据えた社内体制の早期整備が、下半期の採用競争を左右する分水嶺になる。
出典
- 厚生労働省「一般職業紹介状況(令和8年7月分)参考統計表」(2026年8月28日発表)✅一次
- 経済産業省「IT人材需給に関する調査」(2019年4月公表、2030年推計)✅一次
- 出入国在留管理庁 技術・人文知識・国際業務ビザ審査ガイドライン改正(2026年4月)⚠️二次(行政書士事務所解説記事経由で確認)
- 高度専門職ポイント制度・永住許可特例 ⚠️二次(複数の行政書士事務所解説記事で相互確認)
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米大学卒業後、NYでコンサルティング・NPO・起業を経験。帰国後、楽天・デロイト トーマツ ベンチャーサポートにて海外展開およびベンチャー支援に従事し、14カ国・500社超の事業成長を支援。2021年にThe CXO創業。複数ベンチャーのCXOとして参画し、実践知に基づく知見体系・フレームワークの構築を進めている。
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