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M&A市場の回復動向2026|スタートアップの買収価格・件数の実態

大野 祐生
M&A市場の回復動向2026|スタートアップの買収価格・件数の実態

2026年上半期のM&A市場は、件数ベースで8年連続の上期増加を記録しました。

一方で取引総額は前年同期比で3割以上減少しています。

件数は伸びているのに金額は縮んでいる。この「回復」の中身を、スタートアップの買収価格・件数の実態とあわせて見ていきます。

2026年のM&A市場は「回復」しているのか|まず全体の数字を見る

M&A市場全体の動向は、件数は増加・金額は減少という2つの流れが同時に進んでいるのが2026年上半期の特徴です。

2026年1〜6月のM&A件数は733件で、前年同期から72件・10.8%増加しました。

上期としては8年連続の増加となり、量的には明確な回復基調にあります。

ただし取引総額は8兆2,655億円にとどまり、前年同期比で3割以上減少しました。

1,000億円超の大型案件は19件(うち米国関連が12件)と、大型ディールそのものは一定数あります。

それでも前年に見られたような超大型案件の集中がなかったことが、総額の減少につながっています。

指標 2026年上半期(1-6月) 前年同期からの変化
件数 733件 72件増(+10.8%)。上期として8年連続の増加
取引総額 8兆2,655億円 3割以上の減少
1件あたりの平均額 約113億円(総額÷件数) 減少(件数が増え、総額が減ったため)
1,000億円超の大型案件 19件(うち米国関連12件) 前年比較のデータなし

「M&A市場の回復」を件数だけで語ると実態を見誤ります。

案件の裾野が広がる一方で、1件あたりの規模は小粒化している。これが2026年上半期の全体像です。

スタートアップM&Aは高水準を維持|2023年123件から2025年167件へ

スタートアップの被買収・子会社化件数は、2025年に167件となり、2024年に続いて高水準を維持しました。

2023年時点の123件が当時の過去最高水準だったことを踏まえると、2年間で件数はさらに積み上がっていることになります。

2025年上半期(1〜6月)だけでも72件が観測されており、通期での高水準は一過性のものではなく、継続的なトレンドとして定着しつつあります。

スタートアップ被買収・子会社化件数
2023年 123件(当時の過去最高水準)
2025年(通期) 167件
2025年上半期 72件

背景の一つは、東証グロース市場の上場維持基準見直しです。

IPOを前提にしてきたスタートアップが戦略の見直しを迫られる一方、大企業側は成長市場を取り込む「攻めの経営」を強めています。

この双方の思惑が重なり、M&AがEXIT手段として存在感を増しているのが2025年以降の構図です。

経産省がM&Aを「成長戦略」に格上げ|デュアルトラック経営という指針

2026年5月21日、経済産業省は「スタートアップM&Aガイダンス」を公表しました。

これは、日本のスタートアップの資本政策がIPOに偏重してきたことへの是正が狙いです。

ガイダンスでは、IPOとM&Aの両方をEXITの選択肢として並行して視野に入れる「デュアルトラック経営」の重要性が示されています。

売り手であるスタートアップ経営者側、買い手である大企業側、双方が実務上留意すべき論点が有識者検討会の議論を経て整理された点が特徴です。

これまで「M&A=IPOに失敗した場合の代替策」というイメージが根強かった日本のスタートアップ・エコシステムにおいて、M&Aを最初から成長戦略の一つとして設計するという発想の転換を後押しする内容といえます。

買収価格の実態|AI・DX領域は「技術」そのものが評価される

2026年のM&A市場で買い手の関心が特に集まっているのは、業界特化型AI(医療・製造・広告など)、LLM活用SaaS、データ基盤系のスタートアップです。

これらの領域では、売上規模よりもエンジニアの質・独自データ・特許やアルゴリズムといった「技術そのもの」が買収価格の評価軸になりつつあります。

従来型のEBITDA倍率による算定だけでなく、自社で同等の技術・人材を獲得する場合の「代替コスト」や「採用コスト」を基準に価格を組み立てるケースも増えています。

これは、AI・DX人材の採用競争が激化する中で、「技術と人材をまとめて獲得する手段」としてM&Aを使う大企業の戦略が一般化しつつあることを示しています。

売り手であるスタートアップ側から見ると、赤字であっても技術的な優位性や保有データの独自性を明確に言語化できれば、買収価格の交渉材料になり得るということです。

CFO・経営者が今おさえておくべき3つのポイント

ここまでの動向を踏まえると、資金調達やEXITを検討するCFO・経営者が意識すべき点は次の3つに整理できます。

1つ目は、資本政策の初期段階からデュアルトラックを前提にすることです。

IPO一本足の資本政策ではなく、M&Aも選択肢として並走させる設計を早期に検討しておくことで、市場環境の変化に対する柔軟性が高まります。

2つ目は、技術的な優位性を定量・定性の両面で言語化しておくことです。

買収価格の評価軸が売上規模から技術・データ・人材へと広がっている以上、財務指標だけでなく技術資産の棚卸しが交渉力に直結します。

3つ目は、件数増加の裏にある小粒化トレンドを理解しておくことです。

大型ディールの絶対数が限られる中では、身の丈に合った規模での早期のM&A検討も、資本政策上の現実的な選択肢になります。

よくある質問

2026年上半期のM&A件数は前年と比べてどれくらい増えましたか?

2026年1〜6月のM&A件数は733件で、前年同期比72件・10.8%の増加でした。上期としては8年連続の増加です。

M&A件数が増えているのに取引総額が減っているのはなぜですか?

1,000億円を超えるような超大型案件の集中が前年に比べて少なかったためです。件数は増える一方、1件あたりの平均規模は縮小しています。

スタートアップM&Aガイダンスとは何ですか?

経済産業省が2026年5月21日に公表した指針で、IPOに偏重してきた資本政策を見直し、IPOとM&Aを並行して検討する「デュアルトラック経営」を推奨する内容です。

AI領域のスタートアップM&Aで買収価格はどう決まりますか?

売上規模を基準にしたEBITDA倍率だけでなく、エンジニアの質や独自データ、特許などの技術資産を、自社で獲得する場合の代替コスト・採用コストと比較して評価する手法が広がっています。

まとめ

  • 2026年上半期のM&A件数は733件(前年同期比+10.8%)で8年連続の上期増加、一方で取引総額は3割超減少
  • スタートアップの被買収・子会社化は2023年123件→2025年167件と高水準を維持
  • 経産省が2026年5月21日「スタートアップM&Aガイダンス」を公表し、デュアルトラック経営を推奨
  • AI・DX領域では技術・人材そのものが買収価格の評価軸になりつつある
  • 資本政策の初期段階からM&Aを選択肢に入れ、技術的優位性を言語化しておくことが交渉力につながる

CFO.Mediaでは、こうした資金調達・M&A動向を週次・月次レポートや業界分析として継続的に発信しています。自社の資本政策の検討に活かしたい方は、CFO.Mediaをぜひご覧ください。

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大野 祐生
Author
大野 祐生

米大学卒業後、NYでコンサルティング・NPO・起業を経験。帰国後、楽天・デロイト トーマツ ベンチャーサポートにて海外展開およびベンチャー支援に従事し、14カ国・500社超の事業成長を支援。2021年にThe CXO創業。複数ベンチャーのCXOとして参画し、実践知に基づく知見体系・フレームワークの構築を進めている。

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