スタートアップの契約書レビューを軽視すると、NDAや業務委託契約の一文が原因で、ソースコードやノウハウの流出、想定外のコスト負担につながることがあります。本記事では、法務担当者が不在の初期スタートアップが自社でレビューを行う際のチェックポイントを解説します。あわせて、顧問弁護士に依頼すべきタイミングも紹介します。
契約書レビューとは
契約書レビューとは、締結前の契約書を読み込み、自社にとって不利な条項やリスクを事前に洗い出す作業のことです。単なる誤字脱字の確認ではなく、責任範囲・支払条件・解除条件が事業実態と合っているかを確認する工程を指します。
レビューの定義
この確認作業は大きく分けて「条項チェック」「リスク評価」「交渉ポイントの整理」の3段階で構成されます。条項チェックでは契約書の各条項が法令や自社ポリシーに反していないかを確認します。リスク評価では発生し得る損害の大きさを見積もります。交渉ポイントの整理では、修正を求める条項に優先順位をつけます。
なぜ今スタートアップに重要か
シード〜シリーズAのスタートアップは、業務委託・NDA・投資契約など短期間に多数の契約書に署名する機会があります。法務担当者を雇う前の段階で契約書レビューの型を持たないまま契約を重ねると、契約不備が後で発覚することがあります。資金調達時のデューデリジェンス(投資家による事前調査)で指摘されると、投資判断に影響するケースもあります。こうした確認作業は、資金調達準備の一部として捉えるべき工程です。実際、公正取引委員会が2020年11月に公表した「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」では、回答した1,447社の約17%が、連携先や出資者から納得できない行為を受けたと回答しています。
この割合は、社内に法務担当者がいない会社では約23%に上がります。いる会社(約14%)の約1.6倍です。法務担当者を置けない段階こそ、経営者自身がレビューの型を持つ必要があるといえます。
契約書レビューの具体的なチェックポイント
契約の種類ごとに確認すべき条項は異なります。ここでは初期スタートアップが直面しやすい3つの契約類型について、具体的なチェックポイントを解説します。
NDA(秘密保持契約)の確認事項
NDAは投資家や取引先と最初に交わすことが多い契約です。確認すべきは秘密情報の定義範囲、目的外使用の禁止条項、有効期間の3点です。特に秘密情報の定義が広すぎると、自社が持つ既存のノウハウまで対象に含まれてしまう場合があります。有効期間は一般的に締結から2〜3年が目安です。業界によっては5年以上を求められることもあり、事業内容に応じた交渉が必要です。
前述の実態調査で最も多く報告されたのは、NDAに関するトラブル(約31%)です。契約書のないままソースコードを開示させられ、まもなく相手が類似サービスを発表した例や、自社だけが秘密情報を開示する片務的な契約を結ばされた例が報告されています。
業務委託契約の確認事項
業務委託契約では、成果物の権利帰属と再委託の可否が最も見落とされやすいポイントです。開発を外部委託する場合、著作権が委託先に残る契約になっていると、後から自社サービスの改修や販売に制約が生じます。確認の段階で「成果物の著作権は発注者に帰属する」旨を明記できているか見ておきましょう。また、報酬の支払条件(検収基準・支払サイト)が自社のキャッシュフローと合っているかも合わせて確認する必要があります。
投資契約・株主間契約の確認事項
投資契約では、希薄化防止条項、優先分配権、取締役会の拒否権項目が経営の自由度に直結します。レビューの際は、これらの条項が将来の資金調達や意思決定にどう影響するかを確認することが重要です。投資契約書の重要条項については、CFO.Mediaの投資契約書の重要条項に関する解説記事でも詳しく取り上げています。
契約書レビューで失敗しないためのポイント
この作業は形式的なチェックリストの消化ではなく、事業リスクを見積もる工程です。よくある失敗パターンを押さえたうえで、専門家に依頼すべきタイミングを判断しましょう。
よくある失敗パターン
最も多い失敗は、契約書のひな形をそのまま使い回し、自社の事業実態と条項がずれていることに気づかないケースです。特に取引先から提示された契約書をそのまま受け入れ、支払条件や解除条件が自社に不利なまま締結してしまう例が目立ちます。また、レビューを経営者一人で完結させ、記録を残さないまま口頭合意に頼ってしまうケースもあります。これも後のトラブルの火種になりやすい失敗パターンです。
不利な条件を断り切れない実態もあります。同調査では、納得できない行為を受けた会社の約79%が少なくとも一部を受け入れ、その約56%に利益の低下などの不利益が生じています。取引を失う不安から不利な条項を飲む判断が、後からキャッシュフローに跳ね返ります。
顧問弁護士に依頼すべきタイミング
定型的な契約の一次チェックは自社でも進められます。ただし、判断に迷う条項が出てきたときが、専門家に相談するタイミングです。金額規模の大きい取引、投資契約・M&A関連、海外企業との契約は、弁護士のレビューを受けることが一般的です。顧問契約がない段階でも、スポットでリーガルチェックを依頼できる法律事務所はあります。資金調達前に一度依頼しておくと、デューデリジェンス対応が進めやすくなります。なお、個別の契約の法的な判断については、弁護士等の専門家に相談してください。
契約書レビューと資金調達デューデリジェンス
資金調達の際に実施されるデューデリジェンスでは、法務面の確認として契約書の内容や管理状況も対象になります。契約書の不備が見つかると修正や再締結の対応が必要になり、資金調達のスケジュール遅延に直結します。資金調達を検討し始めた段階で確認体制を整えておくことが望ましいといえます。デューデリジェンスで確認される観点の全体像は、デューデリジェンスの解説記事で詳しく取り上げています。
よくある質問
レビューは自社で行っても問題ないですか?
定型的な業務委託契約やNDAの一次チェックは自社でも可能です。ただし、金額規模が大きい契約や投資契約は、弁護士など専門家に相談することが一般的です。
確認にかかる期間の目安はどのくらいですか?
契約書1件あたり、社内レビューであれば数日、弁護士に依頼する場合は1〜2週間が目安です。急ぎの契約は事前に伝えておくとスムーズです。
顧問弁護士がいない場合はどうすればよいですか?
スタートアップ向けのスポット法務相談サービスを利用する方法があります。資金調達前のタイミングで一度契約書全体を確認してもらうことが有効です。
NDAと業務委託契約はどちらを先に確認すべきですか?
取引開始前に締結するNDAを先に確認するのが基本です。業務委託契約はNDAの秘密情報の定義を踏まえて確認すると整合性が取りやすくなります。
まとめ
契約書レビューは、スタートアップの事業リスクを事前に洗い出すための実務プロセスです。
- レビューはNDA・業務委託契約・投資契約で確認すべき条項が異なる
- NDAは秘密情報の定義範囲と有効期間、業務委託契約は成果物の権利帰属が見落としやすいポイント
- 投資契約は希薄化防止条項や拒否権項目が経営の自由度に直結する
- 金額規模が大きい取引や投資契約・M&A関連は弁護士など専門家への相談が一般的
- 資金調達を検討し始めた段階で確認体制を整えておくとデューデリジェンス対応がスムーズになる
こうした確認体制づくりは、資金調達準備や財務デューデリジェンス対応とも密接に関わります。CFO.Mediaでは、資金調達・財務戦略・経営管理に関する週次・月次レポートや業界分析を継続的に発信しています。あわせて確認しておくとよいでしょう。
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