2026年、スタートアップのR&D(研究開発)投資は明確な二極化の局面に入っています。AI・バイオ・量子コンピュータなど成長領域では前期比で研究開発費が大幅増となる一方、収益化を優先するSaaS系スタートアップではR&D比率を引き下げる動きが目立ちます。R&D税制の拡充を追い風に、税額控除を活用しながら研究投資を続ける経営者が増えています。この記事では、2026年のスタートアップR&D投資の全体像と税制活用の実態を整理します。
2026年のR&D投資全体概況
スタートアップのR&D投資は、段階と領域によって大きく傾向が分かれています。
研究開発費の推移
総務省統計局「科学技術研究調査」および経済産業省「スタートアップ支援策」関連の公表資料では、ベンチャー・スタートアップ層の研究開発投資が増加傾向にあることが示されています。特にAI・バイオ・先端素材領域での増加が顕著で、政府が掲げる「スタートアップ育成5か年計画」のもとでもディープテック領域への重点配分が進んでいます(出典: 経済産業省「スタートアップ・新規事業」/総務省「科学技術研究調査」)。
背景には、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)やJST(科学技術振興機構)の大型プログラムによる公的支援の増加があります。プログラム採択を契機に民間のシリーズA・B調達とR&D投資を並走させる資金構成が定番化しつつあります。
スタートアップの資金配分実態
調達額に対するR&D費比率を見ると、ディープテック系スタートアップ(バイオ・素材・量子等)は総費用の50〜70%をR&Dに充てるのに対し、SaaS・プラットフォーム系は20〜35%程度にとどまります。2026年は、投資家側からの「収益性重視」の圧力がSaaS系のR&D比率を押し下げる方向に働いており、早期の黒字化を優先する傾向が続いています。
R&D税制の活用実態
2026年の研究開発税制改正は、スタートアップにとって大きな追い風となっています。
令和5・6年度改正の主要ポイント
令和5・6年度税制改正で見直されたR&D税制は、試験研究費の総額型控除率が最大14%(中小企業技術基盤強化税制では最大17%)という水準を維持しつつ、オープンイノベーション型(大企業との共同研究)の控除率が引き上げられました。さらに、スタートアップが大学や研究機関との共同研究に費用を支出した場合の「特別試験研究費」控除(最大30%)の対象範囲が拡大しています(出典: 国税庁タックスアンサー No.5441 研究開発税制について/経済産業省「研究開発税制」)。
AIの研究開発における試験研究費の取扱いについては、東京国税局の事前照会回答「AIを利用して行った新たなサービスの開発における租税特別措置法第42条の4の適用について」(国税庁公表・回答日2015年4月2日)で、新規性のあるAIサービス開発に関連する費用が試験研究費控除の対象となりうる枠組みが示されており、現在も実務上の重要な参照点となっています(出典: 国税庁 東京国税局 文書回答事例)。LLMの学習費用や推論APIの研究用途利用費についても、新規性ある技術開発の一環として整理できるかを個別に判断する構造であり、AIスタートアップは税理士と早期にすり合わせる動きが広がっています。
税額控除の活用課題
中小企業向けの試験研究費控除は、税理士・会計事務所のサポートを受けながら適用する企業が年々増えており、スタートアップでの認知・活用は着実に広がっています。一方で、「控除額の計算が複雑でどこまで対象になるかわからない」という声は依然として多く、専門家の支援を活用できている企業と活用できていない企業の差が広がっているのが実態です。控除適用の見極めは、決算前ではなく期初の段階から税理士とすり合わせるのが実務上の鉄則です。
注目領域のR&D投資分析
公的支援と税制を組み合わせる代表事例
NEDOは2025年7月、「ディープテック・スタートアップ支援事業(DTSU)」で新たに18社を採択し、合計約112.4億円の助成を決定しました(出典: NEDOプレスリリース)。この採択企業群はNEDOの大型補助金を起点に研究を立ち上げ、並行してVC調達で事業化資金を確保するという「公的支援+民間調達」の並走モデルを取っています。
具体的な事例としては、農業バイオ素材のEF Polymer株式会社が同事業に採択され(出典: EF Polymerプレスリリース)、量子コンピュータ領域ではOptQC(2025年10月シリーズA1で15億円調達)、Yaqumo(2025年に7億円調達でフランスQuantonationの日本初投資先)、OIST発のQubitcore(2024年7月シードラウンドで総額15.3億円)が、NEDO等の公的支援を採択しつつ大型のエクイティ調達を行う典型例として注目されています(出典: 各社プレスリリース・PR TIMES)。
これら企業が共通して採用しているのは、「公的支援で研究段階をカバーし、税額控除で実質負担を圧縮しながら、VC調達で市場化段階に踏み出す」3段構造です。研究開発税制の総額型・中小企業強化型・特別試験研究費の各控除を段階に合わせて使い分け、補助金の対象外費用に税額控除を充てる運用が定着しつつあります。
SBIRと並走するスタートアップの動き
SBIR(中小企業技術革新制度)は2021年の抜本改正で内閣府を司令塔とする支援体制に移行し、現在も再強化の流れが続いています(出典: 内閣府「SBIR制度特設サイト」)。採択スタートアップは助成金をR&Dに充てながら、並行してVC調達を行うという両輪の資金構成が一般的になっています。SBIR採択は、後続のシリーズ調達における「技術の信頼性」を示す指標としても機能しており、調達条件(評価額・希薄化)の改善にもつながっています。
経営者・CFOが押さえるべきポイント
R&D投資と資金調達の連携設計
R&D投資を効果的に行うには、資金調達のタイミングと計画の整合が欠かせません。特に試験研究費の控除を最大化するには、単年の費用計上ではなく、翌期繰越控除も視野に入れた複数年計画が必要です。年度途中に調達した場合、当期に費用計上できるR&Dの範囲と控除可能額の見通しを事前に試算しておくことが、CFOとしての最低限の準備です。
また、NEDOやJSTの助成金は「対象費目」が細かく規定されており、助成の対象となった費用は試験研究費控除と重複適用できないケースもあります。二重取りを避けつつ最大限に活用するには、助成金申請の段階から税理士と連携することが実務上の鉄則です。
2026年後半の見通し
2026年後半は、AI・バイオ系の有望スタートアップへのR&D投資競争がさらに激化する見込みです。一方で、金利上昇局面におけるVC側の「早期回収」志向は継続しており、R&Dの長期化が見込まれるディープテック系への投資には厳しい眼も向けられています。
R&D重視の経営方針を貫くには、公的支援と税制の組み合わせで「VC依存度を下げる資金構成」を設計することが、2026年後半の重要な経営課題になりそうです。
よくある質問
スタートアップはR&D税制をいつから使えますか?
設立当初でも試験研究費があれば控除の対象になります。ただし、赤字期は法人税がゼロのため税額控除のメリットが出ません。黒字化が見えてきた段階で税理士と整理するのが現実的です。
試験研究費に含められる費用の範囲はどこまでですか?
人件費(研究担当者の給与)・材料費・外注費・設備の減価償却費などが対象です。AI活用に伴うAPIコストやLLM学習費を試験研究費に含められるかは、東京国税局の事前照会回答(2015年)の枠組みと、自社の研究実態をすり合わせて個別に判断する必要があります。
NEDOの助成金とR&D税制は同時に使えますか?
原則として同じ費用への重複適用はできません。助成対象外の費用に試験研究費控除を適用する形で両制度を組み合わせるのが実務上の進め方です。
まとめ
2026年のスタートアップR&D投資の実態を整理します。
- ディープテック・AI系はR&D費比率が50〜70%。公的支援とVC調達の組み合わせが定番化
- R&D税制は総額型最大14%(中小企業最大17%)・特別試験研究費最大30%が継続。AI開発費の取扱いは2015年の東京国税局照会回答が実務上の参照点
- NEDO「ディープテック・スタートアップ支援事業」は2025年7月に18社・約112.4億円を採択。EF Polymer・OptQC・Yaqumo・Qubitcore等が公的支援+VC調達+R&D税制の3段構造を採用
- CFOの実務課題は繰越控除を含む複数年計画と、助成金との費用区分整理
- 2026年後半は公的支援活用でVC依存度を下げる資金構成が重要な競争軸になる
CFO.Mediaでは、スタートアップの資金調達・財務戦略・経営管理に関する週次・月次レポートや業界分析を継続的に発信しています。
出典・参考

米大学卒業後、NYでコンサルティング・NPO・起業を経験。帰国後、楽天・デロイト トーマツ ベンチャーサポートにて海外展開およびベンチャー支援に従事し、14カ国・500社超の事業成長を支援。2021年にThe CXO創業。複数ベンチャーのCXOとして参画し、実践知に基づく知見体系・フレームワークの構築を進めている。