2025年の国内スタートアップ投資では、VCの投資額が減り、事業法人の投資額が増えました。Speeda(INITIAL)の集計では、事業法人の投資額は1,480億円(前年から320億円増)で、投資した事業法人の数は742社から701社へ減っています。投資額は増え、投資する会社は減った。つまり、事業法人のお金は「広く薄く」から「絞って厚く」へ動いています。
資金を調達する側にとって、これは出資者の顔ぶれが変わるだけの話ではありません。大型調達の相手が事業会社の資金になるほど、資本政策と契約で見るべき点が変わります。この記事では、2025年の数字で担い手の交代を確認し、調達する経営者・CFOが契約前に確認したい点を整理します。
2025年に起きたこと:VCが減り、事業法人が増えた
投資家タイプ別の投資額は次のとおりです(Speeda「Japan Startup Finance 2025」、2026年1月公表。デット除く、観測ラグを含む速報ベース)。
| 投資家タイプ | 2025年 | 前年との差 |
|---|---|---|
| VC | 2,973億円 | 263億円減(8%減) |
| 事業法人 | 1,480億円 | 320億円増 |
| 金融機関 | 367億円 | 57億円増(310億円→367億円) |
全体の調達総額は7,613億円で、前年からほぼ横ばいです。総額が保たれたのは、VCの減少分を事業会社や金融機関が埋めたからだと読めます。
1社あたりの投資額は約1.4倍に
事業法人の投資額は1,480億円、投資した会社は701社です。1社あたりに直すと約2.1億円になります。前年は投資額が1,160億円(1,480億円−320億円)、投資した会社が742社でしたから、約1.6億円です。1社あたりの投資額は約1.4倍になった計算です(編集部試算。同じ集計の数字を割っただけで、重複や非開示の影響は残ります)。
この「絞って厚く」が、スタートアップ側の資金調達にどう効くのかが次の論点です。
大型調達ほど担い手が交代している
Speedaは「10億円以上の大型調達」に絞ると変化はさらに鮮明で、VCの投資額が減る一方、事業法人の投資額が増えていると指摘しています。理由として挙げているのは、VCは初回投資後の追加出資の余力を残す設計のため、勝ち筋が見える先に厚く配分しやすいこと。事業法人は技術や市場へのアクセス、協業を目的とする戦略投資なので、大型調達で関与を強めやすいことです。
同じ資料から、2025年の大型調達の例を3つ挙げます。
- Mujin:2025年の調達額首位。NTTグループとカタール投資庁がリード
- インターステラテクノロジズ:トヨタグループ、ウーブン・バイ・トヨタがリード。約70億円の出資を受け、エンジン製造などで事業連携
- Sakana AI:2025年11月にシリーズBで約200億円の調達を発表。既存株主の三菱UFJ銀行や海外投資家が参加(集計時点で登記簿未確認のため、Speedaのランキング対象外)
インターステラテクノロジズのように、出資と事業連携が同時に動く例もあります。この種の出資は、お金と事業提携がセットで来る場合があると考えて準備するのが現実的です。
自社DBで見る金融グループ系VCの存在感
CFO.Media Startup DB調べ(2026年1〜6月、580案件を集計・2026-09-16計測)で、投資家別の参加件数を見ると、上位には銀行グループ系のVCが並びます。
| 投資家 | 参加件数 |
|---|---|
| 三菱UFJキャピタル | 41件 |
| みずほキャピタル | 23件 |
| SMBCベンチャーキャピタル | 19件 |
上位10社の参加件数の合計は184件で、このうちメガバンク系VC3社だけで83件です。件数ベースの数字で、投資額ではありません。また、Speedaの集計とは母集団も集計日も違うため、両者の数字を直接比べることはできません。ただ、傾向としては「事業法人・金融機関が存在感を増した」というSpeedaの見立てと同じ向きです。
なお、計測日によってDBの件数は動きます。2か月前の計測(2026-07-16)では同じ3社の合計は75件でした(三菱UFJ34件、みずほ22件、SMBC19件)。
事業法人の出資が増えるときの3つの論点
論点1:依存度が上がるリスク
Speedaは今後の観測ポイントとして、大型調達における事業法人の比率がさらに上がるかを挙げ、「市場の下支え要因である一方、依存度上昇はリスクでもある」としています。事業法人の投資は本業の業績や経営方針に左右されます。調達計画を事業法人1社の追加出資に置くと、その会社の方針転換が資金繰りに直結します。
一方で、投資意欲そのものは落ちていません。日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)の2025年の会員アンケート(207社回答)では、今後の投資金額を「増やす」または「今まで通り」と答えた会員が、CVC会員で83.3%、VC会員で88.6%でした。ただし、これは会員の意向調査であり、実際の投資額を保証するものではありません。
論点2:事前承認事項と意思決定の速さ
事業会社が出資する際は、株主間契約で「一定の事項を行うときに投資家の事前承認を要する」という条項(事前承認事項)が論点になります。経済産業省が2025年9月に公表した投資契約ガイドライン増補版は、事前承認事項が多岐にわたると発行会社の迅速な意思決定を妨げるおそれがあるとして、各項目の必要性を吟味することを求めています。あわせて、個々の投資家ではなく「多数優先株主」を承認権者にする設計も例示しています。
事業会社は戦略的なリターンを重視するため、母体の事業と利益が相反しうる事項(知的財産の扱い、競合との資本提携など)が承認事項の論点になりえます。どの項目なら受け入れられ、どの項目なら事前通知や事前協議に落とせるかを、交渉前に決めておくと進めやすくなります。
論点3:取締役の指名と、情報の扱い
取締役やオブザーバーの派遣も、事業会社との交渉で出やすい論点です。指名された取締役は、指名元ではなく、スタートアップに対して善管注意義務と忠実義務を負います。それでも、出資元の担当者の異動や短期の成果志向が経営会議に持ち込まれるリスクは残ります。
情報提供についても、出資元は財務情報に加えて研究開発の進捗などを求めることがあります。他の株主との公平を保つため、自社だけに情報提供を求めるサイドレターで対応する例もあるとされます。どこまでの情報を、誰に、どの頻度で出すかは、先に社内で決めておく項目です。
契約前に確認したい5点
CFOや経営者が、事業会社からの出資を検討する段階で確認しておきたい点をまとめます。
- 提携条件(共同開発、販売協力など)が、出資の前提条件になっていないか
- 事前承認事項が、母体の事業利益に偏っていないか
- 取締役・オブザーバーの指名権が、持分比率が下がった後も残る設計になっていないか
- 競合他社の出資を制限する条項が、次の調達を狭めないか
- 出資元の追加出資を前提にした資金計画になっていないか
出口の選択肢にも影響する
出口の環境も押さえておきます。Speedaの集計では、2025年のIPOは108社、そのうちスタートアップは過去10年で最低の31社でした。一方、被買収・子会社化は167件と高い水準です。象徴的な案件がUPSIDERで、みずほ銀行が株式の70%を460億円で取得しました。IPOが伸びにくい中、事業法人や金融機関からの出資は、将来の買収につながる入口にもなります。
ただし、同じ事業領域の他の事業会社が、出資済みの会社への投資に慎重になる可能性もあります。最初の出資元を選ぶことが、後の調達や出口の選択肢を左右します。この点は交渉の段階から意識しておくべきです。
よくある質問
事業法人とCVCは同じですか?
近いものですが、同じではありません。CVCは事業会社が自社の戦略目的で運営する投資組織で、親会社の本体から直接出資する場合もあります。Speedaの投資家タイプ別集計では、VC、事業法人、金融機関が別の区分になっています。
事業会社から出資を受けると、他の投資家は入りにくくなりますか?
一概には言えません。ただし、競合関係にある事業会社が株主にいると、次の調達で他の事業会社が慎重になる可能性はあります。出資を受ける前に、競合排除条項や情報管理のルールを確認してください。
契約書のひな形はありますか?
経済産業省が「我が国における健全なベンチャー投資に係る契約の主たる留意事項」を公表しており、2025年9月に増補版が出ています。条項の位置づけと交渉の考え方が整理されているので、弁護士に相談する前の下調べとして使えます。
まとめ
- 2025年はVCの投資額が8%減り、事業法人は320億円増の1,480億円になった
- 投資した事業法人は742社から701社へ減り、1社あたりの投資額は約1.4倍になった(編集部試算)
- 大型調達ほど事業会社の比重が高く、資金と事業提携がセットで来る
- 依存度、事前承認事項、取締役の指名と情報の扱いの3点を、交渉前に決めておく
市場全体のトレンドは、CVC投資トレンド2026で整理しています。CVCから調達する際の実務はCVCとの資金調達実務、地方銀行系の動きは地域金融機関のVC参入動向2026をご覧ください。CFO.Mediaでは、週次・月次のレポートで調達動向を追っています。
出典
- Speeda(INITIAL)「選別と延長戦が進む──2025年スタートアップ資金調達動向」(2026年1月19日)
- 日本ベンチャーキャピタル協会「JVCA会員への投資方針アンケートを実施しました」(2025年11月11日)
- 経済産業省「スタートアップ投資契約ガイドライン」増補版(2025年9月30日)
- CFO.Media Startup DB調べ(2026年1〜6月、580案件を集計・2026-09-16計測)
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