中小企業新事業進出補助金は、中小企業等が新たな事業領域に挑戦することを支援する補助制度です。事業再構築補助金の後継として2025年度(令和7年度)に創設され、最大9,000万円の補助が受けられます。本記事では、事業再構築補助金との違い、対象者、補助額、申請方法を具体的に解説します。
中小企業新事業進出補助金とは
制度の概要と目的
中小企業新事業進出補助金とは、中小企業等がこれまでの事業とは異なる新しい事業に挑戦する際の設備投資や人材育成を支援する補助制度です。 事業再構築補助金の後継として2025年度(令和7年度)に創設され、中小企業庁が所管し、中小企業基盤整備機構が事務局を担当しています。
制度の目的は、中小企業が新規事業への進出を通じて成長を実現し、日本経済全体の活性化に貢献することです。単なる既存事業の拡大ではなく、新たな製品・サービスを新たな顧客に提供する本格的な事業転換を想定しています。
事業再構築補助金からの主な変更点
事業再構築補助金は新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業者の事業転換を支援する時限措置でしたが、新事業進出補助金はコロナ対策色を外し、より恒久的な中小企業支援制度として再設計されています。 事業再構築補助金は第13回公募で新規募集を終了し、本制度に統合されました。
変更点として特に重要なのは、「業態転換」類型の廃止です。事業再構築補助金では飲食店がテイクアウトを始める、小売店がネット販売を追加するといった業態変更も対象でしたが、新事業進出補助金では完全に新しい商品・サービスを新しい顧客層に提供する事業のみが対象になります。
中小企業新事業進出補助金の補助額と対象経費
補助上限額と補助率
補助上限額は従業員数に応じて設定され、最小で750万円〜2,500万円、大幅賃上げ特例を適用すれば最大3,000万円〜9,000万円まで受給できます。 具体的な上限額は以下の通りです。
| 従業員数 | 通常の補助上限 | 大幅賃上げ特例適用時 |
|---|---|---|
| 20人以下 | 750万円〜2,500万円 | 1,000万円〜3,000万円 |
| 21〜50人 | 750万円〜4,000万円 | 1,000万円〜5,000万円 |
| 51〜100人 | 750万円〜5,000万円 | 1,000万円〜6,000万円 |
| 101人以上 | 750万円〜7,000万円 | 1,000万円〜9,000万円 |
補助率は中小企業・中堅企業ともに1/2が基本です。地域別最低賃金引上げ特例の適用により2/3に引き上げられます。 ただし、大規模な賃上げを実施する企業では補助率が優遇され、従業員の給与総額を年率6%以上増加させる計画を提出すれば補助率・補助上限ともに引き上げられます。
補助対象となる経費
補助対象経費は以下の通りです。
- 建物費: 新規事業用の施設改修・建設費用
- 機械装置・システム構築費: 生産設備、製造装置、ITシステムの導入費用
- 技術導入費: 特許権・ライセンス取得費用
- 外注費: 専門家への業務委託費用
- 広告宣伝費: 新規事業のマーケティング費用
- 研修費: 従業員の教育・人材育成費用
補助対象外となる主な経費は、人件費、家賃・光熱費、既存事業の運転資金、汎用性の高い事務用品等です。
対象事業者と申請要件
基本的な対象者
中小企業新事業進出補助金の対象者は、資本金または常勤従業員数が中小企業基本法で定める規模以下の中小企業者です。 法人だけでなく、個人事業主でも要件を満たせば申請できます。
中小企業者の定義は業種によって異なります。製造業では資本金3億円以下または従業員300人以下、サービス業では資本金5,000万円以下または従業員100人以下、卸売業では資本金1億円以下または従業員100人以下が目安です。
申請できない事業者(除外要件)
以下のいずれかに該当する事業者は申請できません。
従業員数が0名の事業者: 応募申請時点で常勤従業員が1名以上必要です。個人事業主本人のみで従業員がいない場合は対象外となります。
新規設立後1年未満の事業者: 創業直後の企業は対象外です。「新事業進出」の前提として、既存事業の実績が1年以上求められます。
他の補助金との併用制限: 本補助金の申請締切日から過去16か月以内に事業再構築補助金・ものづくり補助金の交付を受けた事業者、またはこれらの補助金の事業実施期間中(実績報告未完了)の事業者は申請できません。これは補助金の二重取りを防ぐための措置です。
事業再構築補助金との違い
対象事業の範囲
最大の違いは、新事業進出補助金では「業態転換」が対象外になった点です。 事業再構築補助金では既存事業の提供方法を変える業態転換(飲食店のテイクアウト追加、実店舗のEC化等)も補助対象でしたが、新事業進出補助金は完全に新しい製品・サービスを新しい市場に提供する事業のみを対象とします。
具体的には、新たな製品を製造するための新設備導入、新サービス開発のためのシステム構築、新規顧客層向けの商品開発といった、事業の根幹から新規性がある取り組みが求められます。既存事業の延長線上にある取り組みは採択されにくくなっています。
申請プロセスと審査基準
事業再構築補助金ではコロナ禍の売上減少が申請要件の一つでしたが、新事業進出補助金ではこの売上減少要件が撤廃されました。 コロナの影響の有無にかかわらず、新事業への挑戦意欲がある中小企業であれば申請できます。
審査基準も変更され、事業計画の成長性、新規性、地域経済への貢献度、賃上げ計画の実現可能性などが重視されます。特に大幅賃上げ特例を活用する場合は、給与総額を年率6%以上増加させる計画の具体性と実現性が厳しく審査されます。
補助金額と補助率
事業再構築補助金の通常枠は補助上限2,000万円〜8,000万円でしたが、新事業進出補助金では下限が750万円に引き下げられ、より小規模な事業者も利用しやすくなりました。 一方で大幅賃上げ特例を適用すれば最大9,000万円まで補助が受けられるため、成長意欲の高い企業にとってはより大きな支援が期待できます。
補助率は両制度ともに中小企業・中堅企業で1/2が基本ですが、新事業進出補助金では地域別最低賃金引上げ特例による補助率2/3への引き上げが明確化されています。
申請方法と手続きの流れ
申請前の準備
申請は電子申請システム経由で行うため、「GビズIDプライムアカウント」の取得が必須です。 取得には1〜2週間かかるため、公募開始前に早めに手続きを始めることをおすすめします。GビズIDはマイナンバーカードまたは印鑑証明書を使って申請でき、一度取得すれば他の行政手続きにも利用できます。
加えて、「次世代育成支援対策推進法」に基づく一般事業主行動計画の策定・公表も必要です。 これは従業員の子育て支援に関する企業の取り組み計画で、都道府県労働局に届け出たうえで、厚生労働省の「両立支援のひろば」サイトに掲載する必要があります。
申請手続きの流れ
申請は中小企業新事業進出補助金の専用申請システムを通じて行います。事業計画書もWeb上の入力フォームに直接データを入力する方式です。
申請に必要な主な書類は以下の通りです。
- 事業計画書: 新規事業の内容、市場分析、収支計画、実施体制を記載
- 決算書: 直近3期分の貸借対照表・損益計算書
- 従業員数を証明する書類: 労働者名簿、給与台帳等
- 賃上げ計画書: 大幅賃上げ特例を利用する場合
- GビズIDプライムアカウント: システムログインに使用
- 一般事業主行動計画の策定・公表を証明する書類
現在の公募スケジュール(2026年第3回)
2026年度の公募スケジュールは以下の通りです。
- 申請受付開始: 2026年2月17日(火)
- 申請締切: 2026年3月26日(木)18:00
- 採択発表: 2026年7月頃予定
公募は年複数回実施される予定ですが、予算の状況により回数が変更される可能性があります。最新のスケジュールは公式サイトで確認してください。
採択されるための申請ポイント
事業計画書の書き方
採択率を上げるには、新規性・実現可能性・市場性の3点を具体的に示すことが重要です。 新規性では、既存事業との違いを明確にし、なぜこの事業が「新規進出」と言えるのかを説明します。単なる商品ラインナップの追加ではなく、技術・顧客層・販売チャネルのいずれかが大きく変わることを示します。
実現可能性では、必要な設備・人材・資金を具体的に記載し、スケジュールの妥当性を示します。外部専門家の協力体制、設備導入後の生産計画、販路開拓の具体策などを数値とともに提示すると説得力が増します。
市場性では、ターゲット顧客の規模、競合状況、自社の差別化ポイントを明確にします。市場調査データや顧客ヒアリング結果があれば積極的に盛り込みます。
認定支援機関の活用
事業再構築補助金では認定支援機関の関与が必須でしたが、新事業進出補助金では必須要件ではありません。 ただし、認定経営革新等支援機関(認定支援機関)に事業計画の策定支援を依頼すると、審査で加点される可能性があります。
認定支援機関には税理士、中小企業診断士、商工会議所、地域金融機関などが含まれます。補助金申請の経験が豊富な専門家に相談することで、事業計画の質を高め、採択率を向上させることができます。
よくある不採択理由
過去の事業再構築補助金の不採択事例から、以下のパターンが目立ちます。
新規性が不十分: 既存事業の延長とみなされるケース。「今までの顧客に新しい商品を売る」だけでは新事業進出とは認められません。
収支計画の甘さ: 売上予測が楽観的すぎる、経費の見積もりが不十分、補助金終了後の事業継続性が不明確なケース。
実施体制の不備: 新規事業を担当する人員が明確でない、必要な技術・ノウハウの習得計画がないケース。
よくある質問
中小企業新事業進出補助金は個人事業主でも申請できますか?
はい、申請できます。個人事業主でも常勤従業員が1名以上いれば対象となります。ただし、創業後1年以上の事業実績が必要です。
事業再構築補助金の採択を受けた企業は申請できませんか?
本補助金の申請締切日から過去16か月以内に事業再構築補助金の交付を受けた事業者、または事業実施期間中(実績報告未完了)の場合は申請できません。事業完了後16か月経過すれば申請可能です。
補助金の交付はいつ受けられますか?
補助金は後払い方式です。採択後に事業を実施し、完了後に実績報告を提出して審査を受けた後、補助金が交付されます。事業開始時の資金は自己資金または融資で準備する必要があります。
大幅賃上げ特例を利用するには何が必要ですか?
従業員の給与総額を年率6%以上増加させる計画を提出し、実際に実施することが必要です。事業完了後に賃上げ実績の報告も求められます。
まとめ
中小企業新事業進出補助金は、中小企業が新たな事業領域に挑戦する際の強力な支援制度です。本記事で解説したポイントを以下にまとめます。
- 制度概要: 事業再構築補助金の後継として2025年度に創設。最大9,000万円の補助が受けられる
- 対象事業: 完全に新しい製品・サービスを新しい顧客に提供する事業のみ。業態転換は対象外
- 対象者: 中小企業者で従業員1名以上、創業1年以上。他補助金との併用制限あり
- 補助額: 従業員数により750万円〜7,000万円。大幅賃上げ特例で最大9,000万円
- 申請方法: GビズID・一般事業主行動計画が必須。電子申請システムで手続き
- 採択ポイント: 新規性・実現可能性・市場性を具体的に示す事業計画が重要
新事業への挑戦を検討している中小企業の方は、公式サイトで最新情報を確認し、早めの準備を進めることをおすすめします。CFO.Mediaでは補助金・資金調達に関する記事を継続的に発信しています。
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