2025年、スタートアップの資金調達現場で「延長戦」が常態化しつつある。Speeda(スピーダ)の「Japan Startup Finance 2025」によると、2025年上半期に調達額上位20社の半数でプレシリーズやエクステンション(延長)ラウンドが確認された。調達の中央値も前年の7,760万円から6,240万円に約20%低下し、調達規模の小型化も進んでいる。ブリッジラウンドは今や「計画外の緊急対応」ではなく、スタートアップが事前に折り込むべき調達戦略の一部となった。本稿では、Speedaなどの市場データに加え、CFO.Media Startup DBで実際の調達手法分布や具体事例を確認しながら、2025〜2026年の構造変化と、CFO・経営者が今すべき準備を整理する。
2025年の市場概況――延長戦が標準化
調達の小型化と長期化
2025年通期の国内スタートアップ調達総額は7,613億円とほぼ横ばいだったが、内訳は大きく変化している。調達企業数は前年比6%減の2,700社となり、調達中央値は7,760万円から6,240万円へ約20%低下した(Speeda調べ)。
50億円未満の小規模調達が金額・社数ともに増加し、一方で大型調達への資金集中も続く。この二極化の中で、中間規模(1〜10億円)の調達が最も圧力を受けており、この層でブリッジファイナンスの需要が高まっている。資金調達のサイクルも変化しており、従来の18〜24ヶ月から2年以上に延長されるケースが珍しくなくなった。
エクステンションラウンドの一般化
2025年上半期の調達上位20社のうち半数でエクステンション・延長ラウンドが見られた(Speeda調べ)。グローバルでは2025年のVCラウンドの約20%がダウンラウンドとなり、歴史的平均の2倍に達している(Alpaca VC分析)。次ラウンドへの条件が整わない中でブリッジを挟む判断が増え、「E2ラウンド」や延長ラウンドが後期ステージでも一般化しつつある。2026年4月時点では、コンバーチブル・SAFEの活用比率も増加傾向にあり、この流れは当面続くとみられている。
なぜ増えているのか――構造的な背景
EXIT環境の不確実性
IPOとM&Aの二択において、2025〜2026年は上場基準の厳格化が続いており、計画どおりのEXIT時期を見込めない企業が増えている。IPOまでのランウェイが伸びると、既存ラウンドの調達額では資金が枯渇するタイミングが早まる。このギャップを埋めるために、ブリッジを挟む選択が現実解になった。M&Aエグジットについても、2025年1〜6月の国内外M&A総額は過去最大の約31兆円(前年同期比3.6倍)に達しており、スタートアップが出口戦略を資金計画に組み込む重要性が増している。
次ラウンド条件の悪化
選別強化の環境下では「次のラウンドで評価されるKPIにまだ届いていない」という状態でブリッジが使われるケースが増えた。既存投資家にとっても、ダウンラウンドを回避するためのブリッジは合理的な選択だ。シリーズAからBへの橋渡しで追加12〜18ヶ月が必要になることは珍しくなく、この間のランウェイ確保がブリッジの主目的となっている。
ブリッジラウンドの実務形態
J-KISSとコンバーティブルの活用
日本ではJ-KISS(Keep It Simple Security)がブリッジ手段として定着している。バリュエーション確定を次ラウンドに先送りできる点と交渉コストの低さが評価される理由だ。プレシード〜シードのブリッジにはJ-KISSが、シリーズA以降ではコンバーティブルノートやSAFE類似契約が選ばれやすい。コンバーティブルとJ-KISSの主な違いは利息の有無と変換条件の柔軟性にある。いずれも「次のラウンドで投資家に転換される」設計であり、短期間での合意形成が可能な点がブリッジ用途に適している。
CFO.Media Startup DBで2025〜2026年(5月時点)の調達案件を抽出すると、J-KISS型ラウンドはシード中心ながら、シリーズA以降での活用事例も増えている。直近の代表例として、SIGQ(インシデントマネジメントAI)が2026年4月にプレシリーズAのエクステンションラウンドでJ-KISS型新株予約権により1.53億円を追加調達、レストアビジョン(遺伝子治療)が同月にPreシリーズBで13億円をJ-KISS型新株予約権で調達、パトスロゴス(HR SaaS)が同月にシリーズBで31億円をJ-KISS型新株予約権を含む形で調達している。レイトステージのシリーズDでも2025年8月にイノバセル(再生医療)が73億円規模のラウンドでJ-KISS型新株予約権を活用しており、後期ステージでも有効な手段になっている。
既存投資家との交渉ポイント
ブリッジは新規投資家を引き入れるより、既存投資家が主導するケースが多い。交渉の核心は「いつ、何のためのブリッジか」の明確化だ。「次のラウンドのためにX指標を達成するためのYヶ月分の資金」という条件設計が、既存投資家の承認を得やすい。ディスカウント率(一般的に10〜20%)とバリュエーションキャップが主な交渉項目となり、既存ラウンドの条件に近い水準に設定することで合意形成が早まる。
経営者・CFOが押さえるべきポイント
ブリッジを前提にした資金計画
今の環境では「次のラウンドまでストレートに繋がる」前提を捨てることが現実的だ。財務計画にブリッジシナリオを明示的に組み込み、「ブリッジを発動するトリガー条件」(例:ランウェイが6ヶ月を切った時点)と「ブリッジで確保する期間(最低12ヶ月)」を事前に設定しておくことが有効だ。ブリッジを「例外処理」ではなく「計画上の選択肢の一つ」として扱うことで、資金繰りの危機対応ではなく戦略的な意思決定として動ける。
次ラウンドへの移行条件を明確にする
ブリッジで多いのは「何度も重ねて次のラウンドに進めない」失敗パターンだ。各ブリッジには明確な「移行KPI」を設定する。ARR、ユーザー数、粗利率など、次ラウンドの投資家が評価する指標を先に定義し、ブリッジの目的をそれに絞ることで資金効率が上がる。CFO.Mediaの月次・週次業界分析レポートでは国内外の調達トレンドとステージ別のバリュエーション動向を配信しており、調達計画を立てる際の参考情報として活用してほしい。
よくある質問
ブリッジラウンドとエクステンションラウンドの違いは何ですか?
ブリッジラウンドは新たな調達ラウンドへの橋渡しを目的とした短期調達です。エクステンションは既存ラウンドを同条件・同バリュエーションで延長するもので、新たな合意書類が少なく手続きが速い点が異なります。
ブリッジで調達できる金額の相場は?
CFO.Media Startup DBで2025〜2026年のJ-KISS型ラウンドを抽出すると、シードラウンドは1億円前後(5,000万〜1.5億円が中心)、プレシリーズA〜シリーズB前のブリッジは1〜13億円程度と、ステージが上がるほど大型化する分布が確認できます。既存投資家が全額引き受けるケースと、外部投資家を一部加える混合型があり、いずれも「次ラウンドの一部を先取りする」設計が中心です。
ブリッジは次の投資家にどう映るか?
既存投資家が支援するブリッジは「信頼の継続」として肯定的に評価されることが多いです。ただし複数回繰り返すと「成長停滞」と判断されるリスクがあります。次ラウンドの投資家には、ブリッジの理由と達成した成果を明確に説明できる準備が必要です。
まとめ
- 2025年上半期、調達上位20社の半数でエクステンション・延長ラウンドが発生
- 調達中央値は約20%低下し、次ラウンドまでのサイクルも2年以上に延長
- ブリッジの主な手段はJ-KISSとコンバーティブル。後期ステージではSAFE類似契約も増加
- ブリッジを前提にした財務計画と、移行KPIの明確化が経営上の必須事項になりつつある
調達環境が厳格化する中、ブリッジラウンドは「失敗の兆候」ではなく「計画的な選択肢」として再定義されている。先手を打った資金計画と透明なKPI設計が、今後のスタートアップ経営を左右する。

米大学卒業後、NYでコンサルティング・NPO・起業を経験。帰国後、楽天・デロイト トーマツ ベンチャーサポートにて海外展開およびベンチャー支援に従事し、14カ国・500社超の事業成長を支援。2021年にThe CXO創業。複数ベンチャーのCXOとして参画し、実践知に基づく知見体系・フレームワークの構築を進めている。
