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【世界を変革する専門家に学ぶ|北條 明宏氏】スタートアップのフェーズ別、お薦め資金調達手法(第3回)

 

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【世界を変革する専門家に学ぶ|北條 明宏氏】
・第1回:スタートアップの資金調達ラウンドと企業評価価値の考え方
・第2回:スタートアップの資金調達と事業計画の書き方
・第3回:スタートアップのフェーズ別、お薦め資金調達手法👈
第4回:シリーズAからの投資契約書の種類株式で気を付けるべき点は
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第1回のコラムで、企業価値と資金調達額によって調達ラウンドというものがあることについて、また、第2回では調達手法(エクイティファイナンス・デッドファイナンス)について解説をしました。

第3回となる今回は、調達ラウンド別にお薦めの調達方法について具体例を交えて解説していきます。

各フェーズにおける資金調達手法

第2回で解説した通り、調達手法を大別すると、投資家が企業に対して直接お金を出資する「エクイティファイナンス」と、企業と資金提供者の間に金融機関等が間に入り資金の貸付けを行う「デッドファイナンス」の2つがあります。

スタートアップのフェーズごとに活用を検討すべき、調達手法の代表例を下記図表で整理しました。


エンジェル・シード期にお薦めの調達手法

推奨例 1:J-KISS(エクイティファイナンス)

「KISS」とは「Keep It Simple Secuirty」の頭文字をとった呼称で、アメリカのシリコンバレーを中心に用いられている新株予約権発行に関する投資契約書の雛形です。この日本版ということで、J-KISSという呼び名で日本のスタートアップ業界にも広く活用されています。

J-KISSの主な特徴は、有償の転換価額調整型新株予約権であり、バリュエーションを次ラウンドまで先送りできる部分にあります。つまり、投資家が1,000万円を出資し、新株予約権を1つ取得した場合、「バリュエーションは次ラウンドまで見送る」ため、出資段階では、新株予約権が何株になるのかは確定しません。

ただ、これでは、投資家にとって不利な条件のため、「バリュエーション・キャップ」と呼ばれる、転換価額に上限を付け、 転換価額が大きくなりすぎるのを防いだり、割引した価額で転換できる、「ディスカウントレート」を設定する投資家保護の観点もこの雛形に盛り込まれています。

推奨例 2:新創業融資制度 日本政策金融公庫(デットファイナンス)

日本政策金融公庫が提供する、「新創業融資制度」は新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない事業者を対象とした融資制度です。

また、この融資は原則、無担保・無保証人であり、代表者個人に責任が及ばないことが特徴の一つです。

融資限度額は3,000万円(うち運転資金1,500万円)で、基準金利は2.45%〜3.45%(2023年1月5日時点)、返済期間は約5年〜7年となっています。

推奨例 3:創業融資 信用保証協会(地域金融機関)(デットファイナンス)

信用保証協会の創業融資も押さえておくべき調達手法の一つです。融資の相談は、お付き合いがあるもしくはお付き合いを考えている地方銀行や信用金庫などが窓口になります。

借入条件等は、前述した日本政策金融公庫の新創業融資制度と似ており、融資限度額は3,500万円(東京都の場合)で、基準金利は約2.0%程度、返済期間は約5年〜7年となっています。

 

アーリー期(プレシリーズA・シリーズA)にお薦めの調達手法

プレシリーズA・シリーズAの段階では、自社のプロダクト・サービスのβ版・正式版リリースに向け、まとまった資金が必要になり、VCからの投資を検討するスタートアップが増えていきます。エクイティファイナンスによる資金調達を行う場合は、資本政策に沿って進めていきましょう。

今回は、アーリー期で、活用を検討すべきデッドファイナンスについて説明いたします。

推奨例 :資本性ローン 国民生活事業(日本政策金融公庫)(デットファイナンス)

資本性ローンは、新規事業等に取り組むスタートアップや中小企業の財務体質強化のために、資本性資金を供給する制度になります。

通常、金融機関からの借入は負債としてバランスシートに計上されますが、資本性ローンは資本として計上でき、期限一括返済となるため、期限までは毎月利息分だけの支払いになることが特徴です。

融資限度額は4,000万円で、基準金利は融資後1年ごとに、直近決算の業績に応じて見直しされ、返済期間は約5年〜15年と他の融資と比較して、返済期間が長めに設定されています。

また、加えて以下のような特徴もあり、スタートアップにとって使い勝手が良い制度です。

  • 無担保・無保証人で借入ができる
  • 赤字でも、融資審査が通る可能性がある

資本性ローンの審査を通過させるポイントは、エクイティをうまく活用することです。エクイティでの調達ができているということは外部から評価されているということと同義であり、審査のプラス材料になります。

仮に、1,000万円程度のエクイティ調達であっても、資本性ローンで3,000万円~4,000万円の融資実行に繋がる可能性が高くなります。

 

たまに、デッドとエクイティファイナンスのどちらが良いかという相談を受けますが、個人的にはどちらもにうまく利用すべきだと考えています。

初期のスタートアップは赤字が続くことが多く、デッドファイナンスの実行が難しい場合が多くありますが、資本制ローンの様に、エクイティをうまく使うことで、デッドファイナンスを成功しやすくするという効果もあるので、どちらも活用し、事業に集中できる程度のキャッシュは確保しておくことをお薦めします。

本コラムのまとめ

今回は以下のラウンドごとにお薦めの調達手法について説明しました。

  • エンジェル・シード期に、エクイティファイナンスをする場合は、J-KISSがお薦め。また、活用可能な融資制度も多くあり、日本政策金融公庫の新創業融資制度や信用保証協会の創業融資もスタートアップの多くが活用している。
  • プレシリーズA・シリーズA期に、自社のプロダクト・サービスの開発にまとまった資金が必要な場合、資本性ローンの活用を検討することがお薦めです。

次回で本連載企画は最終回となります。最後のテーマは具体的な投資契約を締結する際の留意点や株式の種類について解説していくので、最終回もお楽しみに。

 

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【世界を変革する専門家に学ぶ|北條 明宏氏】
・第1回:スタートアップの資金調達ラウンドと企業評価価値の考え方
・第2回:スタートアップの資金調達と事業計画の書き方
・第3回:スタートアップのフェーズ別、お薦め資金調達手法👈
第4回:シリーズAからの投資契約書の種類株式で気を付けるべき点は
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この記事の執筆者

北條 明宏(公認会計士・税理士)

アコムで勤務後、監査法人トーマツに入所し、金融機関の監査業務に従事しつつ、ベンチャーの資金調達サポートに携わる。2016年に、ベンチャーに特化した会計事務所を設立。6年間で複数社40億円以上の調達に関与し、多数のベンチャーの社外役員を務める。

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