ストックオプションを付与する際には、税制適格の要件を満たす契約書の作成が不可欠です。契約書の内容次第で、譲渡所得課税(約20%)か給与所得課税(最高55%)かが決まるため、記載項目の設計が税負担に直結します。本記事では、ストックオプション付与時の契約書の役割や税制適格を受けるために必要な項目、令和5年・6年度税制改正の変更点を踏まえた作成時の注意点を解説します。
ストックオプションとは?
ストックオプションとは、企業のインセンティブ制度のひとつです。資金に余裕がない企業が、優秀な人材を確保する目的でおこなわれます。具体的には、株式会社の役員・社員があらかじめ定められた一定の価格(権利行使価格)で自社株を購入できる権利のことです。将来的な株価の上昇が必要なため、成長産業のスタートアップ企業などを中心に実施されています。
ストックオプション付与時の契約書の役割
ストックオプション付与時の契約書の役割について解説します。
税制優遇措置を受けるために契約書が重要
ストックオプションは各企業で柔軟に設計・運用ができますが、税制優遇措置を受けるためには定められた要件を満たさなければなりません。そのため、ストックオプション付与時に税制適格の契約書を作成し、役員や社員と契約を締結する必要があります。
税制適格の場合の税率と課税のタイミング
税制適格の契約書でストックオプションを付与した場合、課税のタイミングは1度だけで、付与された株式を売却した際に課税されます。課税の税率は譲渡所得課税(約20%)です。
また、令和6年度税制改正により、権利行使価額の年間上限が大幅に引き上げられました。従来は年間1,200万円が上限でしたが、改正後は設立年数に応じて上限が引き上げられ、最大で年間3,600万円まで行使が可能です。これにより、企業価値が大きく成長した場合でも、税制適格の枠内でより多くの株式を取得できるようになりました。
税制非適格のストックオプションの税率と課税のタイミング
税制非適格のストックオプションを付与した場合、課税のタイミングが2度あります。具体的には「権利行使時(株式を取得したタイミング)」「株式売却時」に課税されます。課税率は、1度目の権利行使時に給与所得課税として最高で55%(住民税含む)。2度目の株式売却時には、譲渡所得課税として20%となります。税制適格と税制非適格で税の負担が大きく変わることを覚えておきましょう。
契約書に必要な項目と作成時の注意点
ストックオプションを付与した際に税制優遇措置を受けるには、以下の項目を網羅した契約書が必要です。また、優秀な社員の流出を防ぐための項目も準備する必要があります。ここでは各項目の要点について解説します。
行使期間
税制優遇措置を受けるためには、ストックオプションの付与決議日から起算して2年〜10年の期間に行使する必要があります。そのため、契約書に行使期間として「付与決議日後、2年を経過してから10年経過日までの間」と明記しなければなりません。
なお、令和5年度税制改正により、設立から5年未満の非上場会社が付与するストックオプションについては、行使期間の上限が15年に延長されました。創業間もないスタートアップでIPOまでに時間がかかる場合でも、従業員がストックオプションの恩恵を受けやすくなっています。契約書を作成する際は、自社の設立年数と上場見通しを踏まえて、適切な行使期間を設定しましょう。
べスティング
ストックオプションの目的は、優秀な社員の流出を防ぐことです。しかし、権利行使期間にすべてストックオプションを行使して、そのまま退職する従業員が発生する可能性もあります。このような事態を防ぐために、「権利行使期間の最初の1年間はストックオプションの20%までしか行使できない」などの上限を設けることができます。この制度をべスティングといいます。人材流出を避けるためには、契約書にべスティングを設ける必要があります。
権利喪失事由(消滅事由)
人材流出を防ぐための項目として権利喪失事由(消滅事由)を設ける必要があります。「退職後はストックオプションの権利を失う」などの条件を設け、ストックオプションの行使に制限を設けることが大切です。
譲渡制限
ストックオプションは株式と同様に第三者への譲渡が可能です。しかし、税制優遇措置を受けるためには第三者への権利の譲渡を禁止しなければなりません。税制適格の契約書を作成する際には、第三者への譲渡を禁止すると明記しましょう。
行使要件
IPOを目指している企業の場合、行使要件として「上場まで不可」としていることが多いです。しかし、IPOではなくM&Aによるエグジットを選択する企業の場合、M&Aによってストックオプションが行使できなくなる可能性があります。M&Aをしてもストックオプションによって従業員が利益を得られるように、行使要件は柔軟に設定する必要があります。「ストックオプションを行使して取得した株式をM&Aの相手方に売却できる」「ストックオプションそれ自体をM&Aの相手方に売却できる」「M&Aの相手方のストックオプションを付与してもらう」といった方法で、ストックオプションのメリットが失われないようにしましょう。
権利行使価額の年間上限
税制適格ストックオプションでは、1年間に行使できる金額に上限が設けられています。令和6年度税制改正前は年間1,200万円が上限でしたが、改正により以下のとおり引き上げられました。
・設立5年未満の株式会社:年間2,400万円
・設立5年以上20年未満で一定の要件を満たす株式会社:年間3,600万円
・上記以外:年間1,200万円(従来通り)
契約書にはこの上限を踏まえた行使条件を記載する必要があります。特に、複数回に分けて行使する場合のスケジュール設計や、年度をまたいだ行使計画を考慮したうえで条項を整備しましょう。
社外高度人材への付与
令和6年度税制改正では、税制適格ストックオプションを付与できる社外高度人材の範囲も拡充されました。従来は3年以上の実務経験が求められていましたが、国家資格保有者については実務経験要件が撤廃されています。外部協力者への付与を検討する場合は、対象者が社外高度人材の要件を満たすか確認し、契約書に適格要件を明記しておくことが重要です。
ストックオプション契約時の注意点
ストックオプションを付与する対象は外部協力者・従業員・取締役の3つです。それぞれの方と契約する際の注意点について解説します。
契約者ごとの注意点
契約書ごとの、ストックオプション締結時の注意点について解説します。
・外部協力者の場合
ストックオプションは弁護士・税理士・公認会計士などの社外専門家にも付与できます。税制適格ストックオプションも適用されますが、従業員向けの契約書よりもより厳密な要件が設定されています。事前に税理士や弁護士に相談して、どのような要件が必要かを確認してから契約書を作成しましょう。
・従業員の場合
ストックオプションを付与する従業員とそうでない従業員がいる場合、従業員間に不公平感が生まれる可能性があります。公平性を保つためにストックオプション付与には何が必要か、基準を明確に示しましょう。また、従業員が退職した後にストックオプションの権利を主張するというトラブルが発生する可能性があります。契約書に権利喪失事由(退職により権利を失う)を明記するのはもちろん、契約書締結時にもしっかり説明しましょう。
・取締役の場合
取締役は経営に深く関与するポジションで、企業の成功を左右する重要なポジションです。そのため、ストックオプションを付与して流出を防ぐのは非常に有効な方法です。ただし、一人に大量のストックオプションを付与すると、「他の株主の議決権の希薄化」「権利行使後の企業価値や株価への悪影響」が起こる可能性があります。そのため、上場を目指すスタートアップ企業の場合、ストックオプションは上場時の発行済株式数の10%以内を目安にするのが望ましいとされています。
テンプレートを利用する場合の注意点
税制適格ストックオプション契約書にはたくさんのテンプレートがあり、ネットなどからダウンロードして利用できます。ただし、中には税制適格を受けるための要件を充たしていない場合もあり、利用には十分に注意する必要があります。テンプレートに記載された項目を鵜吞みにせず、要件が満たされているか確認すること、必要に応じてカスタマイズしたり、項目を追加したりするようにしましょう。また、契約締結前に専門家に確認してもらうと安心です。
なお、信託型ストックオプションについては注意が必要です。従来は譲渡所得として課税されると考えられていましたが、2023年5月に国税庁が「権利行使時に給与所得として課税する」との見解を示しました。過去の行使分についても遡及して課税される可能性があるため、信託型SOの導入を検討する際は税理士や弁護士に最新の取扱いを確認することが不可欠です。
まとめ
ストックオプションは、資金に余裕のないスタートアップ企業が優秀な人材を確保するうえで非常に有効な手段です。ただし、税制適格を受けるためにはさまざまな要件を満たす必要があり、付与対象者(外部協力者・従業員・取締役)によって契約書に明記すべき条件も異なります。
さらに、令和5年・6年度の税制改正により、行使期間の延長(最大15年)や行使価額の年間上限の引き上げ(最大3,600万円)など、スタートアップに有利な変更が行われています。一方で、信託型ストックオプションについては国税庁が給与所得課税の見解を示すなど、税務上の取扱いが大きく変わった制度もあります。契約書の作成にあたっては最新の税制を確認し、税理士や弁護士など専門家の助言を得たうえで進めることが重要です。
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