スタートアップの資金調達戦略が多様化しています。株式希薄化を抑えながら資金を確保できるベンチャーデットは、2025年に銀行の本格参入が進み、日本でも選択肢として定着しつつあります。本記事では、ベンチャーデットの仕組みと最新の市場動向、エクイティファイナンスとの使い分けを解説します。
ベンチャーデットとは
定義と仕組み
ベンチャーデットとは、スタートアップ向けのデットファイナンス(負債による資金調達)の総称です。広義では無担保・低金利の融資全般を指しますが、狭義では新株予約権付き融資を意味します。
仕組みはシンプルです。金融機関がスタートアップに無担保で融資を実行し、その代わりにスタートアップは新株予約権(ワラント)を無償で発行します。新株予約権は将来の株価上昇時に権利行使されることで、金融機関は貸し倒れリスクを補完します。金利は年2-8%程度、返済期間は1-3年程度が一般的です。
日本では2020年代前半まで専門ファンドが中心でしたが、2025年から銀行が本格参入し、供給体制が整いました。
エクイティファイナンスとの違い
ベンチャーデットとエクイティファイナンス(株式発行による資金調達)の主な違いは、返済義務の有無と株式希薄化の程度です。
エクイティは株式を発行するため返済不要ですが、創業者の持株比率が下がります。一方、ベンチャーデットは返済義務がありますが、新株予約権の比率は通常5-20%と限定的で、株式希薄化を大幅に抑えられます。
VC(ベンチャーキャピタル)からのエクイティ調達は10-30%の持株比率を必要としますが、ベンチャーデットはその1/3程度で資金を確保できます。ただし、ベンチャーデットには金利コストと返済義務が伴います。
2025-2026年のベンチャーデット市場動向
2025年の銀行本格参入
2025年は、日本のベンチャーデット市場にとって転換点となりました。銀行によるベンチャーデットファンド設立が相次ぎ、資金供給者が大幅に拡大したのです。
主な動きとして、2月にあおぞら企業投資と日本政策投資銀行が「HYBRID ANNEX1号」を設立、11月にはりそな銀行がFivotと「RFC Venture Debt Fund 1号」を設立しました。さらに5月にはみずほフィナンシャルグループが総額143億円規模の「UPSIDER BLUE DREAM Growth Fund 2号」に中核的に参画しています。
この背景には、全国銀行協会が2025年2月に「スタートアップ融資実務ハンドブック」を作成したことがあります。地方銀行を含む幅広い金融機関の参入ハードルが下がりました。IPO(新規株式公開)のハードルが上がり株式市場の変動幅も大きかったため、デットを組み込んだ多角的な資本政策の重要性が増した年となりました。
2026年の市場展望
2026年2月には「ベンチャーデットサミット2026」が開催され、テーマは「ベンチャーデットの真実と新潮流」です。参加金融機関の拡大や最新の市場動向が紹介される予定で、市場の成熟度がさらに高まる見通しです。
とはいえ、日本市場の規模は米国と比較するとまだ小さいのが現状です。米国では2021年時点で約331億ドル(約3.7兆円)のベンチャーデット市場が形成されています。日本は数百億円規模と推測され、米国とは数十倍のギャップがあります。
一方で、銀行の本格参入により地方スタートアップへの資金供給も進む可能性があり、CFO.Mediaで追跡している調達案件でもベンチャーデットを併用する事例が増えています。
ベンチャーデットのメリットとデメリット
メリット(株式希薄化回避・ランウェイ延長)
ベンチャーデットの最大のメリットは、株式希薄化を抑えながら資金調達できることです。シリーズAで10億円を調達する場合、エクイティだけなら持株比率が20-30%減少しますが、エクイティ7億円+ベンチャーデット3億円の組み合わせなら希薄化を15-20%程度に抑えられます。
さらに、ランウェイ(資金が尽きるまでの期間)を延長できる点も重要です。次のマイルストーン達成までに12ヶ月必要だが手元資金が8ヶ月分しかない場合、ベンチャーデットで4ヶ月分を確保すれば、バリュエーションが不利な状況でのエクイティ調達を避けられます。
また、エクイティラウンド後にベンチャーデットを追加調達することで、VCの投資時点と比較して低いコストで資金を得られるケースもあります。
デメリット(コスト・返済義務)
一方、ベンチャーデットには明確なデメリットもあります。最大のリスクは返済義務です。エクイティは事業が失敗しても返済不要ですが、ベンチャーデットは毎月または四半期ごとの返済が必要で、キャッシュフローを圧迫します。
また、金利コストと新株予約権のコストがかかります。金利2-8%に加え、新株予約権が行使されると5-20%の株式希薄化が発生するため、実質的なコストはエクイティより高くなる場合もあります。
さらに、ベンチャーデットは通常エクイティ調達の実績があることが前提です。VCが入っていないシード期のスタートアップは利用しづらく、すでにエクイティで一定の評価を得ている企業向けの選択肢と言えます。
エクイティとベンチャーデットの使い分け
ベンチャーデットが向いているケース
ベンチャーデットが適しているのは、以下のようなケースです。
1. 次のマイルストーンまでランウェイが足りない
シリーズAで調達した資金が予定より早く減少し、次のラウンドまで6ヶ月足りない場合、ベンチャーデットでつなぐことで不利なバリュエーションでのエクイティ調達を回避できます。
2. 株式希薄化を最小限に抑えたい
創業者が過半数の持株を維持したい、または既存投資家の希薄化を抑えたいケースでは、ベンチャーデットは有力な選択肢です。
3. 設備投資・運転資金の確保
ハードウェア系スタートアップや在庫を抱えるビジネスでは、返済計画が立てやすいベンチャーデットが向いています。
エクイティが向いているケース
一方、エクイティが適しているのは次のようなケースです。
1. 大規模な事業拡大を狙う
市場シェア拡大のための攻めの投資(マーケティング・人材採用)には、返済義務のないエクイティが適しています。
2. 収益化までの期間が長い
バイオテック・ディープテックなど、研究開発に数年かかる事業は、返済負担が重いベンチャーデットよりエクイティが現実的です。
3. VCのネットワークや支援を活用したい
VCからのエクイティ調達は資金だけでなく、顧客紹介・採用支援・経営アドバイスも得られます。ベンチャーデットは基本的に資金提供のみです。
実際には、エクイティとベンチャーデットを組み合わせるのが最も効果的です。シリーズAでエクイティ8億円+ベンチャーデット2億円のように併用することで、希薄化を抑えつつ十分な資金を確保できます。
よくある質問
ベンチャーデットの金利はどのくらい?
一般的に年2-8%です。金利はスタートアップの成長ステージや事業リスクに応じて決まります。シリーズB以降の安定企業なら2-4%、シリーズAなら4-6%が相場です。銀行系ファンドは比較的低金利で提供するケースが増えています。
新株予約権はどのくらい発行する?
通常、融資額に対して5-20%相当のワラントカバレッジが設定されます。たとえば1億円のベンチャーデットを調達する場合、500万〜1,500万円相当の新株予約権を発行します。行使価格は直近のエクイティラウンドの株価を基準にするのが一般的です。
銀行融資との違いは?
ベンチャーデットは担保・保証人が不要で、将来性を評価して融資が実行されます。一方、通常の銀行融資は担保や代表者保証が必要で、過去の財務実績が重視されます。また、ベンチャーデットには新株予約権が付与されるため、金融機関は株価上昇によるリターンも期待できる仕組みです。
まとめ
ベンチャーデットは、株式希薄化を抑えながら資金調達できる有力な選択肢です。2025年の銀行本格参入により日本でも供給体制が整い、エクイティとの併用が現実的になりました。
- ベンチャーデットは新株予約権付き融資で、株式希薄化を5-20%に抑えられる
- 2025年にりそな・みずほ・あおぞらが相次いでファンド設立、市場が成熟期に
- メリットは希薄化回避とランウェイ延長、デメリットは返済義務とコスト
- エクイティとの併用が最も効果的。シリーズA以降が利用しやすい
- 2026年はサミット開催など市場のさらなる成熟が見込まれる
CFO.Mediaでは、ベンチャーデットを活用した資金調達事例や投資家情報をデータベース化しています。自社に最適な資金調達戦略を検討する際にご活用ください。

米大学卒業後、NYでコンサルティング・NPO・起業を経験。帰国後、楽天・デロイト トーマツ ベンチャーサポートにて海外展開およびベンチャー支援に従事し、14カ国・500社超の事業成長を支援。2021年にThe CXO創業。複数ベンチャーのCXOとして参画し、実践知に基づく知見体系・フレームワークの構築を進めている。