本稿は2026年9月時点の情報に基づく分析です。
地銀・信金によるベンチャー投資は、この1年で目に見えて広がりました。琉球銀行のベンチャーデット、静岡銀行の1,000億円規模の融資枠、各地のCVC設立ラッシュ――CFO.Mediaでも地域金融機関のVC参入動向2026|地銀ベンチャーデットの拡大として取り上げてきた通りです。
この広がりを「地銀がリスクマネーの新しい出し手になった」とそのまま受け取ると、実務では判断を誤ります。大和総研が2026年8月に公表した分析は、地銀系VCの多くが単独でリスクを取るのではなく、他の投資家に追随・補完する形にとどまっていると指摘しています。地方拠点のスタートアップがこの資金をどう使うべきか、CFO視点で整理します。
地銀VC・ベンチャーデット拡大の現在地
琉球銀行は2025年9月からベンチャーデットの取り扱いを開始し、2026年3月には第1号案件として無人化ソリューションを手がけるNew Innovationsへの融資を実行しました。静岡銀行は浜松市の認定金融機関として、赤字段階の企業にも融資する枠を用意しています。山口キャピタル、きらぼしキャピタル、FFGベンチャービジネスパートナーズなど、CVC子会社の設立も各地で相次いでいます。
十六フィナンシャルグループのVC子会社NOBUNAGAキャピタルビレッジは累計投資50件を目標に掲げ、2024年5月末時点の公表ベースで35件まで積み上げています。山口キャピタル、南都キャピタルパートナーズ、きらぼしキャピタルなど、地域を代表する地銀の多くがCVC子会社を持つ状態になりました。
数だけ見れば、地方スタートアップの資金調達の選択肢は確実に増えました。問題は「その資金がどんな性格を持つか」です。地銀VC・ベンチャーデットと、東京の独立系VCを同じ物差しで比較すると、性格の違いが見えてきます。
| 項目 | 地銀VC・ベンチャーデット | 独立系VC(全国区) |
|---|---|---|
| 主な役割 | 追随・協調型の出資が中心 | 自ら案件を発掘しリードを取る |
| 意思決定の速さ | 与信審査ベースで比較的遅い | ディールにより幅があるが機動的 |
| 重視する評価軸 | 事業性評価+地域経済への貢献 | 成長率・市場規模・チーム |
| 資金の性格 | ベンチャーデット(新株予約権付融資)中心 | エクイティ中心 |
大和総研が指摘する「追随型」の構造
大和総研の石井一成氏・西野綾斗氏による分析(2026年8月24日公表)は、地域金融機関のスタートアップ資金供給について3つの構造課題を挙げています。ひとつは、長年の融資偏重の組織文化です。審査もリスク管理も「返済できるか」を前提に設計されており、エクイティ投資に必要な「事業が伸びるか」という評価軸への転換が追いついていません。
もうひとつは、VCなど他のプレイヤーとの情報共有体制の不備です。地銀単独でディールソーシングから追うのではなく、既存の投資家ネットワークから案件情報が回ってくる構造になっています。結果として、銀行系VCは単独でリスクを取るよりも、他主体に追随・補完する形で資金供給を行う傾向があると同レポートは分析しています。
つまり、地銀VCは「新しいリード投資家」ではなく、「すでに他の投資家が入った案件に、地域性を理由に乗る」役回りが多いということです。これは批判ではなく、現時点の実態として押さえておくべき前提です。
なぜ「追随」にとどまるのか
背景には人材と評価の問題があります。エクイティ投資の目利きができる人材は銀行内に少なく、外部VCとの協調融資や共同ファンドという形でノウハウを補っているのが実情です。十六フィナンシャルグループのNOBUNAGAキャピタルビレッジのように投資専門会社を分社化する動きもありますが、大半の地銀はまだ「融資の延長線上にあるベンチャーデット」から入っています。
デット商品であるベンチャーデットが先行しているのも、この文脈で理解できます。新株予約権を付与しつつ融資の形を取るため、既存の与信審査の枠組みを大きく崩さずに扱えるからです。
スタートアップ側の実務対応
CFOとしてこの構造を踏まえるなら、打ち手は3つに整理できます。
第一に、地銀マネーは単独の資金調達計画の柱にしない。追随型である以上、まず全国区のVCやエンジェル投資家からリードを固め、その後に地銀の協調融資・CVC出資を組み合わせる順序が現実的です。地銀を最初の窓口にすると、審査に時間がかかるうえ「他に投資家がいない案件」と見なされ、かえって条件面で不利になります。
第二に、審査で重視されるのは事業性評価に加えて地域経済への貢献度です。地元での雇用創出や取引先拡大、DX・GXへの寄与を具体的な数字で示せる企業ほど、地銀側の稟議は通りやすくなります。全国区のVC向けピッチ資料とは別に、地域貢献の観点を加えた資料を用意しておく価値があります。
第三に、エクイティとデットの組み合わせ方は資金使途で判断します。開発投資や人材採用など返済原資が読みにくい支出はエクイティで、設備投資や運転資金など回収の見通しが立つ支出はベンチャーデットで賄うのが基本です。希薄化を抑えたいという理由だけでデットに寄せると、返済負担がランウェイを圧迫するリスクがあります。
全銀協の手引書と今後の展望
全国銀行協会は2024年4月に専門委員会を設置し、新株予約権の取得方法や一般的な融資とは異なる審査の視点をまとめた手引書の策定を進めてきました。地方銀行がスタートアップ融資に参入しやすくなる環境整備は進んでいますが、大和総研が指摘した組織文化の転換には時間がかかります。制度が整っても、実際に案件を主導できる人材と情報網が育つまでは「追随型」の性格は当面続くと見るのが妥当です。
よくある質問
地銀のベンチャーデットとVC投資、どちらを先に検討すべきですか?
資金使途によります。返済原資が読める設備投資などはベンチャーデットが向き、開発投資などはエクイティが向きます。まず全国区の投資家でリードを固めるのが実務的です。
地銀CVCの審査で重視されるポイントは何ですか?
事業の成長性に加えて、地域経済への貢献度(雇用創出・取引先拡大・DX/GXへの寄与)が重視される傾向があります。地域貢献を示す資料を別途用意すると審査が進みやすくなります。
「追随型」の地銀VCから出資を受けるデメリットはありますか?
単独では意思決定が遅く、他の投資家の判断待ちになりやすい点です。資金調達のスケジュールに余裕を持たせ、地銀を最初の交渉相手にしないことが実務上の対策になります。
まとめ
- 琉球銀行・静岡銀行を中心に地銀VC・ベンチャーデットは拡大しているが、大和総研の分析は「追随型」の構造的な壁を指摘している
- 背景には融資偏重の組織文化と、他の投資家との情報共有体制の不備がある
- スタートアップ側は地銀マネーを資金調達の柱にせず、全国区の投資家でリードを固めたうえで組み合わせるのが実務的
- 地銀の審査では事業性評価に加え、地域経済への貢献度が判断材料になる
- 全銀協の手引書策定など制度整備は進むが、組織文化の転換には時間がかかる
CFO.Mediaでは、資金調達・財務戦略・経営管理に関する週次・月次レポートと業界分析として継続的に発信しています。地域金融機関の動向を経営判断に活かしたい方は、CFO.Mediaをぜひご覧ください。
データ出典: 地域金融機関によるスタートアップへの資金供給(前編)|大和総研 / 地銀のスタートアップ融資を後押し 全銀協が実例や審査の手引書|日本経済新聞 / 地域金融機関のVC参入動向2026|地銀ベンチャーデットの拡大|CFO.Media
3分のチャットで、あなたに合う投資家・補助金・調達の相場感がわかる。無料で使えます。

米大学卒業後、NYでコンサルティング・NPO・起業を経験。帰国後、楽天・デロイト トーマツ ベンチャーサポートにて海外展開およびベンチャー支援に従事し、14カ国・500社超の事業成長を支援。2021年にThe CXO創業。複数ベンチャーのCXOとして参画し、実践知に基づく知見体系・フレームワークの構築を進めている。
プロフィールを見る →