脱炭素・省エネ設備への投資を検討するスタートアップや小規模事業者にとって、補助金だけが選択肢とは限りません。日本政策金融公庫の環境・エネルギー対策資金は、非化石エネルギー関連設備の導入などに低利で融資を受けられる制度です。本記事では国民生活事業版の融資条件を中心に、対象者・対象設備・特別利率・申請の流れを整理します。
環境・エネルギー対策資金とは
制度の概要
同制度は、日本政策金融公庫が扱う融資制度の一つです。太陽光・太陽熱・バイオマス・地中熱などの非化石エネルギー関連設備を新設・更新する事業者を対象にしています(制度にはこのほかGX関連・アスベスト関連など複数の区分があります)。補助金のような返済不要の資金ではなく、通常の融資よりも低い特別利率が適用される点が特徴です。返済義務がある代わりに、公募期間に縛られず通年で申し込める柔軟さがあります。
国民生活事業と中小企業事業の違い
日本政策金融公庫には「国民生活事業」と「中小企業事業」の窓口があり(このほか農林水産事業もあります)、この融資制度もそれぞれで扱われています。国民生活事業は個人事業主・小規模事業者向けで、融資限度額は7,200万円です。一方の中小企業事業は、より規模の大きい中小企業を対象に、融資限度額7億2千万円(直接貸付)という桁違いの枠が用意されています。スタートアップの多くは国民生活事業の対象規模に該当するため、本記事では国民生活事業版を中心に解説します。
なぜ今、脱炭素・省エネ投資に融資制度が使えるのか
補助金は公募期間が限られ、制度によっては採択が狭き門になりがちです。この融資制度は通年で申請でき、審査に通れば確実に資金を確保できるという補助金にはないメリットがあります。設備投資のタイミングを公募スケジュールに合わせる必要がなく、事業計画に沿って資金調達できる点は、スピードを優先したいスタートアップにとって実務上の利点になります。
融資の対象者・対象設備
対象となる事業者
国民生活事業の融資対象は、主に個人事業主や小規模な法人です。公式の利用要件は「非化石エネルギーを導入するために必要な設備を設置する方」とされており、創業年数による定めはありません。
対象設備
本記事で扱う非化石エネルギー関連区分の対象は、次のような設備です。具体的には以下のような設備が含まれます。
- 太陽光発電設備(自家消費型を含む)
- 太陽熱利用設備
- バイオマスエネルギー利用設備
- 地中熱利用設備
- 雪氷熱利用設備
- その他の非化石エネルギー関連設備(GX関連など別区分の対象設備は公庫サイト参照)
自家消費型の太陽光発電設備は10kW以上であることが特別利率の適用要件になっている点に注意が必要です。10kW未満の太陽光発電は特別利率Aの対象外(基準利率の適用)となるため、事前に日本政策金融公庫の窓口に確認することをおすすめします。
融資条件(限度額・期間・利率)
融資限度額と返済期間
国民生活事業における融資限度額は7,200万円です。返済期間は、非化石エネルギー関連設備の場合20年以内(うち据置期間2年以内)です。制度区分により条件が異なるため、運転資金等の扱いは公庫窓口で確認してください。据置期間が設けられているため、設備導入直後の資金繰りへの負担を抑えながら返済計画を組めます。
特別利率A・Bの違い
環境・エネルギー対策資金では、対象設備によって適用される特別利率が異なります。
| 区分 | 適用利率 | 対象設備 |
|---|---|---|
| 特別利率A | 基準利率−0.40%(無担保の場合・2026年8月時点) | 自家消費型太陽光発電設備(10kW以上)・太陽熱利用設備・地中熱利用設備 |
| 特別利率B | 基準利率−0.65%(無担保の場合・2026年8月時点) | 風力・地熱・水力・バイオマス発電、温度差・バイオマス・雪氷の熱利用など(太陽光発電のその他区分は基準利率) |
無担保の場合は特別利率Bのほうが優遇幅が大きくなります(担保の有無等で適用利率は変わります)。どちらの区分に該当するかで実質的な返済負担が変わるため、導入予定の設備がどちらに分類されるかを事前に確認しておくことが重要です。基準利率は日本政策金融公庫が定期的に見直すため、申請時点の最新利率を公式窓口で確認する必要があります。
補助金との違い・使い分け
補助金(返済不要)との性質の違い
補助金は返済不要である一方、公募期間が限られ、採択されなければ資金を得られません。この融資制度は返済義務がありますが、審査要件を満たせば通年で資金を確保できるという違いがあります。「まず低利融資で設備投資を実行し、並行して補助金の公募を待つ」といった使い分けも実務では見られます。
他の補助金・融資制度との併用
同一の対象経費に補助金と融資を重ねられるかどうかは、制度ごとに扱いが異なります。ただし対象経費が異なる場合(たとえば設備費は融資、付帯する省エネ診断費用は補助金といったケース)は、複数制度の併用が可能な場合があります。省エネ・GX関連では、経済産業省・環境省が所管する複数の補助金制度も並行して整備されています。申請前に各制度の公募要領を確認し、重複申請にあたらないかを個別に確認することが必要です。
申請の流れと準備するもの
申請は、他の日本政策金融公庫融資と同様の流れで進みます。
- 事前相談: 最寄りの支店または事業資金相談ダイヤルで対象設備・融資条件を確認
- 必要書類の準備: 事業計画書、設備の見積書、対象設備であることを示す証明書(設備によっては発行機関への申請が必要)
- 申込書の提出: 借入申込書と必要書類一式を提出
- 審査・面談: 事業内容や返済計画についての面談を実施
- 契約・融資実行: 審査通過後に金銭消費貸借契約を締結し、融資が実行される
自家消費型太陽光発電設備など一部の設備では、仕様等を示す証明書類の提出が求められる場合があります。必要書類の準備には一定の期間がかかるため、設備導入のスケジュールから逆算して早めに着手することをおすすめします。
よくある質問
創業間もない事業者でも申請できますか
利用要件(対象設備を設置する方)を満たしていれば申請できます。創業年数による定めはありません。ただし事業計画書の内容や返済能力の審査は他の融資と同様に行われるため、事業計画の具体性が求められます。
補助金と同時に申請してもよいですか
同一経費への併用可否は制度ごとに異なります。対象経費が異なる場合は併用できるケースがあるため、申請前に各制度の窓口へ確認することをおすすめします。
個人事業主でも利用できますか
利用できます。国民生活事業は個人事業主・小規模事業者を主な対象としており、法人化していないスタートアップでも申請可能です。
まとめ
環境・エネルギー対策資金は、非化石エネルギー関連設備の導入を検討する個人事業主・小規模事業者にとって、補助金とは異なる選択肢になる融資制度です。国民生活事業では融資限度額7,200万円、特別利率A・B(無担保の場合、基準利率−0.40%/−0.65%。2026年8月時点)が設備区分に応じて適用されます。公募期間に縛られず通年で申請できる点が、採択率の低い補助金にはない実務上のメリットです。設備導入のスケジュールと照らし合わせながら、補助金・融資それぞれの特性を踏まえて資金調達手段を選ぶことが重要です。
補助金全体の一覧は「【2026年版】スタートアップが使える補助金一覧」、資金調達手段の全体像は「スタートアップの資金調達 完全ガイド」でも解説しています。
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