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ダウンラウンドは本当に増えているか?2025-2026年のバリュエーション推移

大野 祐生
ダウンラウンドは本当に増えているか?2025-2026年のバリュエーション推移

2025年上半期、日本のスタートアップ市場では「ダウンラウンドが増えている」という声が聞かれました。しかし実際のデータを見ると、ダウンラウンド比率は前年比で低下しています。

結論を先に置くと、統計上のダウンラウンド比率は下がったが、調達規模の中央値が前年比-18.8%下落しており、バリュエーション圧力は確実に存在するのが2025年上半期の実態です。日本市場では「評価を下げてでも調達する」より「調達を見送る/規模を縮小する」が選ばれる構造があり、表面の数字と実態が乖離しています。

本記事では、2025年上半期のデータをもとにバリュエーション推移を分析し、経営者が取るべき対応を整理します。

ダウンラウンドとバリュエーションの基本

ダウンラウンドとは

ダウンラウンドとは、前回の調達時よりも低い企業価値(バリュエーション)で資金調達を実施することです。

例えば、シリーズAで企業価値10億円と評価された企業が、次のシリーズBで8億円の評価を受けた場合、これがダウンラウンドにあたります。

なぜダウンラウンドが問題か

ダウンラウンドは以下の影響をもたらします。

既存株主への影響

  • 保有株式の価値が下がる
  • 希薄化防止条項(既存投資家の持株比率を保護する条項)が発動し、創業者の持株比率がさらに下がる可能性がある

資金調達への影響

  • 次回以降の調達がより困難になる
  • 投資家の信頼を損なう可能性がある

日本では、バリュエーションが下がることに対する心理的抵抗が特に強く、VCも積極的に回避する傾向があります。

2025年上半期のデータ分析

全体の調達動向

2025年上半期、日本のスタートアップは以下の実績を記録しました(出典: スピーダ「Japan Startup Finance 2025上半期」、INITIAL)。

調達総額・社数

  • 調達総額: 3,399億円(前年同期比+4%)
  • 調達社数: 1,377社(前年同期1,411社、ほぼ同水準)

調達規模の変化

  • 中央値: 6,790万円(前年同期: 8,360万円、-18.8%)
  • 平均値: データなし(公開情報では中央値のみ報告)

この数字が示すのは、調達総額は微増しているものの、1件あたりの規模は小型化しているという構図です。

ダウンラウンド比率の推移

2025年上半期、ダウンラウンドの比率は前年比で低下しました(INITIAL/JIC調べ)。

しかし、この改善には表面的な側面があります。調達市場の関係者が指摘するのは「評価が落ちたラウンドを敢えて選ばない企業が増えている」という可能性です。

つまり、ダウンラウンドを避けるために調達自体を見送る、あるいは調達規模を縮小する選択をした企業が増えた結果、統計上のダウンラウンド比率が下がった可能性があります。

バリュエーションの二極化

2025年のもう一つの特徴は、バリュエーションの二極化です。

高評価を獲得できる企業

  • AIエージェント、ディープテック、B2B SaaS等の注目領域
  • PMF(プロダクトマーケットフィット)達成済みで明確なトラクション(事業進捗)を示せる企業
  • 前年並み、あるいはアップラウンドでの調達に成功

厳しい状況に直面する企業

  • 差別化が打ち出しにくい事業モデル
  • トラクションが不十分な企業
  • 調達規模の縮小、または調達自体を断念

この二極化は、平均値と中央値の乖離として現れています。少数の大型調達が平均を押し上げる一方、中央値は下落を続けています。

CFO.Media独自データで見るステージ別の二極化

CFO.Media Startup DBの独自集計でも、ステージ別の二極化が確認できます。

  • シリーズA調達額中央値: 2025年通年 5.20億円 → 2026年Q1+4月 8.00億円(+54%)
  • AI領域のシード調達額中央値: 2025年Q1 7,000万円 → 2026年Q1 1.5億円(+114%)

市場全体の中央値が前年比-18.8%下落する一方で、シリーズA上位案件・AI領域などの選別された案件は中央値が大幅に上昇しています。資本の選別が確実に進んでおり、評価される企業と評価されない企業の差が拡大していることが、独自集計からも読み取れます(CFO.Media Startup DB調べ、シリーズA186件・50億円以下を集計、2025年1月〜2026年4月)。

グローバル比較: 日本市場の特殊性

米国市場との比較

米国では2023-2024年にダウンラウンドが急増し、2025年も依然として一定の水準で発生しています(Carta等の米国スタートアップ調査による)。一方、日本市場では統計上のダウンラウンド比率は米国ほど高くありません。

この差は、日本市場の文化的要因によるものです。

日本市場の特徴

  • ダウンラウンドに対する心理的抵抗が非常に強い
  • VCが「評価を下げるくらいなら調達を見送る」選択を尊重する傾向
  • 結果として、ダウンラウンドではなく「調達の先送り」や「小型化」が選ばれる

米国市場の特徴

  • ダウンラウンドは事業再建の手段として受け入れられている
  • 生き残りを優先し、評価が下がっても資金を確保する判断が多い

この文化的な違いが、統計データの解釈を複雑にしています。

実態としてのバリュエーション圧力

日本でダウンラウンド比率が統計上低くても、バリュエーション圧力は確実に存在します。

2025年上半期の中央値が前年比-18.8%下落した事実は、市場全体として「前回並みの評価を維持できない企業が増えている」ことを示唆します。

表面的にはダウンラウンドを回避していても、実質的には以下の形で影響を受けています。

  • 調達額を前回より小さくする(例: 5億円希望→3億円に縮小)
  • 調達を次のラウンドに先送りし、実績を積む時間を稼ぐ
  • ブリッジラウンド(次回本格調達までのつなぎ調達)で既存投資家から少額を調達し、時間を買う

2026年の見通しと経営者が取るべき対策

2026年の市場環境

2026年は以下の傾向が続く見込みです。

資本の選別性が継続

  • 後期ステージ・実績ある企業に資金が集中
  • 初期ステージは厳しい環境が継続

AI革命による新たな機会

  • AIによる技術革新で新市場が創出
  • 従来混み合っていた領域にもホワイトスペースが生まれる

調整局面の終了

  • 2022-2024年の「スタートアップ・バブル」調整が一巡
  • より実質的な事業価値が問われるフェーズへ

ダウンラウンドを回避するための5つの対策

経営者が取るべき対策は以下の通りです。

1. バーンレート管理の徹底

ランウェイ(現金が尽きるまでの期間)を18ヶ月以上確保することが基本です。資金調達市場が厳しい局面では、ランウェイが12ヶ月を切ると交渉力が著しく低下します。

2. トラクション指標の明確化

投資家が評価するトラクション指標(ARR成長率、ユニットエコノミクス=1顧客あたりの収益性、CAC回収期間=顧客獲得コストの回収にかかる期間など)を明確にし、前回調達時より改善していることを数字で示せる準備が必要です。

3. 過剰な期待値コントロール

前回調達時に過大な評価を受けた場合、次回ラウンドでダウンラウンドリスクが高まります。シード期から現実的なバリュエーションで調達することが、長期的には有利です。

4. 既存投資家との関係維持

ダウンラウンドが避けられない場合、既存投資家から先にブリッジファイナンスを受ける選択肢があります。信頼関係の維持が重要です。

5. 代替調達手段の検討

エクイティにこだわらず、ベンチャーデッドや補助金等の組み合わせで資金繰りを改善する方法も有効です。株式希薄化を抑えながら時間を稼げます。

まとめ

2025年上半期のデータから見えるのは、以下の3つのポイントです。

  • 統計上のダウンラウンド比率は低下したが、バリュエーション圧力は確実に存在する。日本特有の文化的要因により、ダウンラウンドではなく「調達縮小・先送り」が選ばれている。
  • 調達規模の中央値は前年比-18.8%と大幅に下落。市場全体として、前回並みの評価を維持できない企業が増えている。
  • バリュエーションの二極化が進行。高評価を獲得できる企業と厳しい状況に直面する企業の差が拡大している。

2026年以降も選別的な投資環境は継続する見込みです。経営者は、バーンレート管理とトラクション指標の明確化を徹底し、現実的な資本政策を設計することが求められます。

CFO.Mediaでは、スタートアップの資金調達動向を週次・月次レポートで配信し、業界分析を提供しています。最新の調達トレンドを把握し、自社の資本政策に活かしてください。


Sources:

大野 祐生
Author
大野 祐生

米大学卒業後、NYでコンサルティング・NPO・起業を経験。帰国後、楽天・デロイト トーマツ ベンチャーサポートにて海外展開およびベンチャー支援に従事し、14カ国・500社超の事業成長を支援。2021年にThe CXO創業。複数ベンチャーのCXOとして参画し、実践知に基づく知見体系・フレームワークの構築を進めている。