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スタートアップのEXIT動向2026|IPO vs M&Aの比率と取引規模の変化

大野 祐生
スタートアップのEXIT動向2026|IPO vs M&Aの比率と取引規模の変化

2026年、スタートアップのEXIT戦略は「IPO一択」から「IPO or M&A」の二択へと明確に変化しています。上場基準の厳格化とIPO準備コストの増大が続く中、M&Aを最初から戦略的なEXITとして設計するスタートアップが増えてきました。本稿では、2025〜2026年のEXIT件数・取引規模の推移と、経営者が把握しておくべき構造変化を整理します。

2025〜2026年のEXIT件数:IPO vs M&Aの実態

IPO件数の推移と上場審査の変化

東京証券取引所グロース市場の新規上場件数は、2023年以降に質的な絞り込みが進んでいます。直近2年の新規上場件数は年間80件前後で推移しており、市場区分再編前の水準(2021年は約130件)と比べると明確に減少しています。

件数減少の背景には、東証が上場後の市場品質を高めるために打ち出した一連の方針があります。2024年以降、「上場直前期の収益性水準」「上場後の流動性確保」「時価総額の最低ライン」に関するガイドラインの実質的な厳格化が進み、プレIPO段階でのスクリーニングが強まっています。IPO準備のリードタイムも長期化しており、シリーズAから上場まで8〜12年が標準的なレンジになっています。これは2018〜2020年頃の6〜8年と比べて2〜4年長くなっており、短期EXIT戦略としてのIPOの魅力が相対的に下がっています。

加えて、監査法人・主幹事証券・IRインフラの整備コストが年間5,000万〜1億円超に達することも、小規模スタートアップにとってIPOの経済合理性を判断する際のハードルになっています。

M&A成約件数の拡大

IPO件数が縮小する一方で、スタートアップのM&A成約件数は拡大傾向にあります。INITIALの調査では、2025年時点で国内VC支援スタートアップのM&A成約件数は年間300件超で推移しており、シード〜シリーズA段階での成約が過半を占めています。

M&A件数拡大の背景は3点です。第一に、大企業側がDX推進・新規事業開発においてスタートアップのチームごと技術を取り込む「タレントアクイハイア」型の取引が浸透してきたこと。第二に、VC各社がファンドサイクル(組成から8〜10年)の中でEXITを実現する必要性が高まり、M&Aをリターン実現の現実的な選択肢として積極的に検討するようになったこと。第三に、M&Aアドバイザリーや仲介サービスが充実し、スタートアップでもM&Aプロセスに対応できるインフラが整ってきたことです。

取引規模で見るEXITの二極化

大型M&A(100億円超)の増加

2025〜2026年において注目されるのは、VC支援スタートアップの100億円超M&Aが増えてきた点です。AI・SaaS・ヘルスケア領域での大型取引が複数報告されており、「M&AはIPOより低いバリュエーション」という前提が変わりつつあります。

SaaS系スタートアップのM&Aバリュエーションの目安は、シリーズBまで調達した段階でARR(年間経常収益)の5〜10倍が中心レンジです。ピーク時(2021〜2022年)の15〜30倍ARRからは大幅に低下していますが、成長率・グロスマージン・解約率(チャーン)の3指標が優秀であれば100億円規模の取引は現実的な水準です。一方でハードウェアやB2C消費者向けモデルでは、売上高1〜2倍前後にとどまるケースも多く、ビジネスモデルによる評価格差は大きくなっています。

小規模EXIT(30億円未満)の多数派構造

M&A全件数の約70%は取引金額が30億円未満とされています(M&Aキャピタルパートナーズ推計)。シード・シリーズA段階のスタートアップが大企業の新規事業部門に吸収されるケースが大多数を占めており、一部は「事業成長が停滞し次のラウンド調達が困難になった段階でのソフトランディング」という側面を持っています。

小規模EXITで特に注意が必要なのは、優先株の分配構造です。複数ラウンドで参加型優先株(Participating Preferred)を発行している場合、取引総額が30億円でも普通株主(創業者・SO保有者)の実取得額が数千万円〜数億円にとどまる事例があります。EXIT交渉を始める前に、キャップテーブル上の分配シミュレーションを行い、各シナリオでの実取得額を確認しておくことが不可欠です。

EXIT手段の選択:IPO準備からM&Aへのシフト

IPO準備中断とM&Aへの方針転換

2025〜2026年において観察されるパターンの一つが、IPO準備を進めていたスタートアップがM&Aに方針転換するケースの増加です。

方針転換が起きやすい条件は3点です。①主幹事証券や主要VCとの事前協議で「上場後の時価総額が100億円を大きく下回る可能性がある」と示された場合。②成長率の鈍化によってIPO時の想定PERでバリュエーションが伸ばせない見通しになった場合。③経営陣が上場後の開示業務・IR対応・四半期決算管理に継続的なコストを割けないと判断した場合。いずれも「IPOの経済合理性がM&Aの経済合理性を下回る」という判断です。

方針転換に際して課題になるのが、既存VCとの調整です。特にリード投資家が「IPOによるリターン」を前提にファンドのIRR計算を組んでいる場合、M&Aへの転換はLP(出資者)への説明責任を生じさせるため、スタートアップ側からの一方的な通知では合意が困難なケースもあります。投資契約のRO(先買権)・ドラッグアロング(強制売却権)条項が具体的にどう設計されているかを確認した上で動くことが重要です。

M&A EXIT後の創業者キャリア

M&A EXIT後の創業者は、一定期間(通常2〜3年)の雇用継続を条件とするイーンアウト条項の下で買収側に残るケースが多くなっています。その後は①大企業の新規事業責任者として内部に残る、②退職後に次の起業へ向かう、③エンジェル投資家・アドバイザーに転じる、の3パターンに分かれます。

EXIT経験を持つ連続起業家は、次の会社で調達する際に投資家から高い評価を受けやすい傾向があります。「M&A EXITは失敗ではなくキャリアの一段階」という認識が国内VCコミュニティにも浸透しつつあり、EXIT経験者が次のラウンドでより有利な条件を引き出す事例が増えています。

2027年以降の展望:セカンダリーと二段階EXIT戦略

2027年以降を展望すると、IPOとM&Aを段階的に組み合わせた「二段階EXIT戦略」や、セカンダリー市場(未上場株の既存株主間取引)を活用した部分流動化が現実的な選択肢として広がっていく可能性があります。

欧米では、スタートアップが大企業に買収された後、その事業部門が改めてスピンオフIPOを行うケースがあります。日本においても、M&A後の「再上場オプション」を設計段階で考慮した取引が出始めています。またセカンダリー市場の整備が進めば、IPOやM&A以前に既存株主が持分の一部を現金化し、創業者やVCの流動性ニーズを部分的に満たす手段が広がります。

EXIT市場の多様化は、資本政策設計をより複雑にします。シード段階からEXITの複数シナリオ(IPO・M&A・セカンダリー部分売却)を想定した株式設計ができているかどうかが、EXIT時の価値実現に大きく影響します。

まとめ

  • IPO件数の縮小: グロース市場の年間新規上場は80件前後に縮小。上場審査の厳格化とリードタイムの長期化が続いている
  • M&A件数の拡大: VC支援スタートアップのM&Aは年間300件超。IPOの3〜4倍のペースでEXITが実現されている
  • 取引規模の二極化: 100億円超の大型M&Aは増加傾向。一方で全体の70%超は30億円未満の小規模取引が占める
  • 優先株の注意点: 小規模EXITでは優先分配権の構造により創業者の実取得額が大きく変わる。EXIT交渉前のシミュレーションが必須
  • 方針転換の増加: IPO準備からM&Aへの転換が増加。投資契約上のRO・ドラッグアロング条項の確認が事前に必要

CFO.MediaではスタートアップのEXITに関する分析・事例・資金調達動向を週次・月次レポートと業界分析として継続的に発信しています。

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大野 祐生
Author
大野 祐生

米大学卒業後、NYでコンサルティング・NPO・起業を経験。帰国後、楽天・デロイト トーマツ ベンチャーサポートにて海外展開およびベンチャー支援に従事し、14カ国・500社超の事業成長を支援。2021年にThe CXO創業。複数ベンチャーのCXOとして参画し、実践知に基づく知見体系・フレームワークの構築を進めている。

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